石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(1)お祈りの時間
ファイターズと硬式野球部、そして馬術部の諸君が練習場所にしているのが上ヶ原の第3フィールド。学生会館の裏手、浄水場の入り口付近から用水路沿いに少し南に歩き、上ヶ原の八幡さんの角を曲がった先にある。数年前にできた新しい施設で、以前練習場に使っていたグラウンドからは5分ほど坂道を上がった場所にある。古い卒業生なら、あそこは確か山だったはずでは、と記憶されているだろう。
第3フィールドに入るロータリーの正面に石造りのモニュメントがあり、そこに聖書の一節が刻まれている。「ローマの信徒への手紙」にある「わたしたちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを」という言葉である。
この第3フィールドで4月3日、シーズンの開幕に当たって、恒例のお祈りの時間が持たれた。式を司るのは部の顧問であり、関西学院の元宗教総主事だった前島宗甫先生である。今春入学したばかりの新入部員を含め、選手や監督、コーチらがグラウンド中央に集まり、前島先生の話に耳を傾ける。
先生は聖書を手に、モニュメントに刻まれている言葉を読み上げ、ファイターズの諸君に、苦難が忍耐を、忍耐が練達を生み、そこから明日への希望が生まれてくる、という話をされた。そして、私たちは、限界と思えることにぶつかるかもしれない、人間の弱さや小ささを思い知らされることもよくある。けれども、私たちは限界を突き抜ける力も持っている。それは求道心である。人間としていかに生きるべきか、ということを突き詰めていけば、どんなに苦しくても忍耐ができる。耐え忍び、目の前の壁を突破しようと努力し続けることで練達が生まれる。そのようにして苦しみを通り抜けて、初めて希望が生まれる。小さい自分が大きい自分になれるようになり、前に進めるようになる。そういう趣旨のことを説かれた。
僕はキリスト教の信者ではないが、この一説には心を惹かれる。ついでにいうと、モニュメントに刻まれている言葉の続きを、聖書は「希望はわたしたちを欺くことがありません」と記しており、ここまでを含めて、手帳の一番目立つところに書き込んでいる。こういう言葉があると、どんなに苦しい事態に追い込まれたときでも「明けない朝はない」と思って、また頑張る力が湧いてくるのである。
自分なりの解釈として、忍耐があって初めて、創意や工夫が生まれ、技術的な進歩や飛躍が生まれる。忍耐という過程を通り抜けない練達はあり得ないし、練達がなければ希望も生まれない。苦しいからといって、希望にすがりつくだけでは駄目である。どんなに苦い現実でも、それを直視し、それを克服するために創意、工夫を凝らし、知恵を搾る。その過程があって初めて化学反応が起き、技と呼ぶに値する練達が生まれる。
勝ちたいからといって過去の成功体験をなぞっているだけでは、競争から落伍するだけだし、第一、先人の描いた絵に色を塗っているだけでは楽しくない。絵を描くなら、どんなに下手でも自分で工夫し、想像力を駆使して初めて楽しみが生まれる。失敗も成功も自分のこととして体感できると思っている。
お祈りの時間は、冒頭の「東日本大震災」の犠牲者を悼む黙祷の時間を含めても10分足らず。けれども、この時間をファイターズの全員が共有することで、チームが挙げて今季に向けた決意を新たにするのである。今年で8年目の行事で、当初はグラウンド入り口の高台にある平郡雷太氏の記念樹と記念碑の前で、志半ばで不慮の死を遂げた平郡雷太氏に、チームとしての誓いを新たにする形で行われていた。
部員数が多くなったため、いまはグラウンドの中央に場所を移し、趣旨も多少変わってきたが、ミッションスクールとしての関西学院大学ならではの行事であり、ファイターズというチームの背骨を形作るための大切な場面でもある。前島先生の言葉を借りれば「気持ちの引き締まる」時間である。新しくチームに参加した新入生たちが、この厳粛な雰囲気の中、武者震いをするような表情で聞いていたのが印象的だった。
このお祈りの時間をもって、2011年のシーズンは始まった。僕の願いはただ一つ。ファイターズの諸君が、今季こそ大学日本1になり、新年1月3日のライスボウルで、これぞファイターズ!という戦いを繰り広げてくれることである。そのために、ささやかな力ではあるが、惜しみなく時間と汗をつぎ込み、チームに尽くしたいと決意している。
◇ ◇
新しいシーズンが開幕し、しばらく休んでいましたこのコラムも再開します。これまで同様、ご愛読を賜り、叱咤激励していただければ幸いです。
第3フィールドに入るロータリーの正面に石造りのモニュメントがあり、そこに聖書の一節が刻まれている。「ローマの信徒への手紙」にある「わたしたちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを」という言葉である。
この第3フィールドで4月3日、シーズンの開幕に当たって、恒例のお祈りの時間が持たれた。式を司るのは部の顧問であり、関西学院の元宗教総主事だった前島宗甫先生である。今春入学したばかりの新入部員を含め、選手や監督、コーチらがグラウンド中央に集まり、前島先生の話に耳を傾ける。
先生は聖書を手に、モニュメントに刻まれている言葉を読み上げ、ファイターズの諸君に、苦難が忍耐を、忍耐が練達を生み、そこから明日への希望が生まれてくる、という話をされた。そして、私たちは、限界と思えることにぶつかるかもしれない、人間の弱さや小ささを思い知らされることもよくある。けれども、私たちは限界を突き抜ける力も持っている。それは求道心である。人間としていかに生きるべきか、ということを突き詰めていけば、どんなに苦しくても忍耐ができる。耐え忍び、目の前の壁を突破しようと努力し続けることで練達が生まれる。そのようにして苦しみを通り抜けて、初めて希望が生まれる。小さい自分が大きい自分になれるようになり、前に進めるようになる。そういう趣旨のことを説かれた。
僕はキリスト教の信者ではないが、この一説には心を惹かれる。ついでにいうと、モニュメントに刻まれている言葉の続きを、聖書は「希望はわたしたちを欺くことがありません」と記しており、ここまでを含めて、手帳の一番目立つところに書き込んでいる。こういう言葉があると、どんなに苦しい事態に追い込まれたときでも「明けない朝はない」と思って、また頑張る力が湧いてくるのである。
自分なりの解釈として、忍耐があって初めて、創意や工夫が生まれ、技術的な進歩や飛躍が生まれる。忍耐という過程を通り抜けない練達はあり得ないし、練達がなければ希望も生まれない。苦しいからといって、希望にすがりつくだけでは駄目である。どんなに苦い現実でも、それを直視し、それを克服するために創意、工夫を凝らし、知恵を搾る。その過程があって初めて化学反応が起き、技と呼ぶに値する練達が生まれる。
勝ちたいからといって過去の成功体験をなぞっているだけでは、競争から落伍するだけだし、第一、先人の描いた絵に色を塗っているだけでは楽しくない。絵を描くなら、どんなに下手でも自分で工夫し、想像力を駆使して初めて楽しみが生まれる。失敗も成功も自分のこととして体感できると思っている。
お祈りの時間は、冒頭の「東日本大震災」の犠牲者を悼む黙祷の時間を含めても10分足らず。けれども、この時間をファイターズの全員が共有することで、チームが挙げて今季に向けた決意を新たにするのである。今年で8年目の行事で、当初はグラウンド入り口の高台にある平郡雷太氏の記念樹と記念碑の前で、志半ばで不慮の死を遂げた平郡雷太氏に、チームとしての誓いを新たにする形で行われていた。
部員数が多くなったため、いまはグラウンドの中央に場所を移し、趣旨も多少変わってきたが、ミッションスクールとしての関西学院大学ならではの行事であり、ファイターズというチームの背骨を形作るための大切な場面でもある。前島先生の言葉を借りれば「気持ちの引き締まる」時間である。新しくチームに参加した新入生たちが、この厳粛な雰囲気の中、武者震いをするような表情で聞いていたのが印象的だった。
このお祈りの時間をもって、2011年のシーズンは始まった。僕の願いはただ一つ。ファイターズの諸君が、今季こそ大学日本1になり、新年1月3日のライスボウルで、これぞファイターズ!という戦いを繰り広げてくれることである。そのために、ささやかな力ではあるが、惜しみなく時間と汗をつぎ込み、チームに尽くしたいと決意している。
◇ ◇
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