石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(22)スペシャリストの活躍
「刮目(かつもく)して相待つべし」という言葉がある。有為の人材は、別れて3日後に会っても、目をこすって見直さなければならない、彼は必ず進歩している、いままでの先入観で判断してはならない、というような意味である。
秋のリーグ戦2戦目、近大との試合では、その言葉を思い起こすような場面に、たびたび遭遇した。
まずは、ハーフライン付近から始まったファイターズの最初の攻撃。第1プレーで、QB加藤からピッチを受けたRB稲村が左のライン際を駆け上がり、そのまま49ヤードを走り切ってタッチダウン(TD)。追いすがる相手守備陣をかわす絶妙のステップが目を見張らせた。初戦でエースRBの松岡と久司が負傷したことに発憤したのだろうか。驚くような成長ぶりだった。
ふたつ目は、主将・平澤を柱とするDL陣の成長ぶり。この日は平澤(4年)、梶原(2年)、長島(3年)、池永(1年)の4人が先発したが、その全員が大暴れ。QBサックやロスタックルを立て続けに見舞い、相手攻撃陣を完封した。
途中から交代で入った佐藤(3年)、朝倉(2年)、岸(2年)もそれぞれQBサックを記録。終わってみれば、相手攻撃をトータルでわずか1ヤード、ランプレーに至っては37回の攻撃でマイナス6ヤードという信じられない記録を作った。
1列目の面々が入れ替わり立ち代わりボールキャリアに襲い掛かるのだから、2列目、3列目の選手たちが活躍する場面がないように見えるほど(もちろん、2Qに鮮やかなインターセプトTDを決めたDB吉井駿哉をはじめ要所要所では活躍しているのだが、スタンドから見ていると、相手のほとんどのプレーを1列目が処理してしまっているように見えた)だった。
試合後、平澤主将に「存分に暴れて楽しかったやろ」と声をかけると「下級生がオレもオレもと競争で頑張ってくれたので……。あれだけ後輩が勢いよくプレーしてくれると、僕も思い切りに動けます」とにっこり。「みんな自信をつけたので、次からもいいプレーをしてくれるでしょう」と付け加えた。
言葉通り、3戦目以降も括目して待とう。下級生が試合ごとに経験を積み、成長していく姿を見るのはワクワクする。
稲村の好走、守備陣の活躍、それぞれに大満足。「満腹、満腹、ごちそうさん」といいたいところだったが、この日の真打ちは、ほかにいた。キッキングゲームで、リターナーとして活躍した尾崎である。彼の活躍ぶりこそ「括目して待っていた」内容だった。
記録を見ると、彼がボールに手を触れたのはキックオフリターンが1回12ヤード、パントリターンが5回161ヤード。獲得距離も素晴らしいが、そのうち2回が一発TDである。1Q8分37秒の55ヤード、4Q5分10秒の65ヤード。相手に警戒されながら、それでも守備陣を切り裂いて一気にゴールラインまで走り切る走力。ブロッカーを使う巧みなカット。スタンドからもどよめきが上がった。
スペシャリストの面目躍如。こんなプレーは、これから対戦する関大の選手の前で見せずに隠しておきたい、と贅沢なことを考えたほどだった。
思えばファイターズが好成績を残した年には、必ず信頼できるスペシャリストがいた。最近では、甲子園ボウルを制した2007年度卒のスナッパー小林雄一郎君。体が小さく、スタメンを奪うことはできなかったが、ロングスナップのスペシャリストとして欠かせぬ存在だった。ファイターズがキックを選択する場面になるたびに登場し、キッカーの大西君に正確無比なボールを供給、彼の活躍を支えた。その甲子園ボウルで、三原君から起死回生のパスを受け、ファイターズの攻撃を繋げたFB多田羅君も、そのプレーを成功させるためだけに1年間を費やしたようなスペシャリストだった。
昨年のチームでいえば、4年生QBの浅海君がそんな役割を果たしていた。最終の立命戦で披露したバスケットボールのゴールシーンのようなパスも、彼が1年間、WR柴田君らと組んで、磨きに磨いた技だった。
ファイターズには、スタッフを除いても150人もの部員がいる。いくら交代自由のアメフットとはいえ、その全員がプレーヤーとして出場し、チームに貢献するのは難しい。けれども、ひとつでも長所があれば、それを磨き抜くことで道は開ける。背の低い者は誰よりも低いタックルをすることで役割が果たせるし、足の速い者はそれで貢献できる。スナッパーもキッカーも、ホールダーも、一芸を磨くことで、役割を果たせる。
こうしてチームに所属するさまざまなメンバーがそれぞれの役割、居場所を見つけることができれば、チームのモラルも向上する。
そういう考え方で、各人がそれぞれ活躍できる場面を想定し、日々黙々と練習しているのがファイターズである。そのリーダー格の尾崎君が颯爽と走る姿を見て、彼らの活躍の場が広がったことを実感できたことがうれしかった。
リーグ戦は始まったばかり。これから対戦するチームは当然、対策を講じてくるだろうが、その警戒網をかいくぐってさらなる活躍をしてほしい。スペシャリストの活躍が現実になったとき、ファイターズの「日本1」が見えてくるはずだ。
秋のリーグ戦2戦目、近大との試合では、その言葉を思い起こすような場面に、たびたび遭遇した。
まずは、ハーフライン付近から始まったファイターズの最初の攻撃。第1プレーで、QB加藤からピッチを受けたRB稲村が左のライン際を駆け上がり、そのまま49ヤードを走り切ってタッチダウン(TD)。追いすがる相手守備陣をかわす絶妙のステップが目を見張らせた。初戦でエースRBの松岡と久司が負傷したことに発憤したのだろうか。驚くような成長ぶりだった。
ふたつ目は、主将・平澤を柱とするDL陣の成長ぶり。この日は平澤(4年)、梶原(2年)、長島(3年)、池永(1年)の4人が先発したが、その全員が大暴れ。QBサックやロスタックルを立て続けに見舞い、相手攻撃陣を完封した。
途中から交代で入った佐藤(3年)、朝倉(2年)、岸(2年)もそれぞれQBサックを記録。終わってみれば、相手攻撃をトータルでわずか1ヤード、ランプレーに至っては37回の攻撃でマイナス6ヤードという信じられない記録を作った。
1列目の面々が入れ替わり立ち代わりボールキャリアに襲い掛かるのだから、2列目、3列目の選手たちが活躍する場面がないように見えるほど(もちろん、2Qに鮮やかなインターセプトTDを決めたDB吉井駿哉をはじめ要所要所では活躍しているのだが、スタンドから見ていると、相手のほとんどのプレーを1列目が処理してしまっているように見えた)だった。
試合後、平澤主将に「存分に暴れて楽しかったやろ」と声をかけると「下級生がオレもオレもと競争で頑張ってくれたので……。あれだけ後輩が勢いよくプレーしてくれると、僕も思い切りに動けます」とにっこり。「みんな自信をつけたので、次からもいいプレーをしてくれるでしょう」と付け加えた。
言葉通り、3戦目以降も括目して待とう。下級生が試合ごとに経験を積み、成長していく姿を見るのはワクワクする。
稲村の好走、守備陣の活躍、それぞれに大満足。「満腹、満腹、ごちそうさん」といいたいところだったが、この日の真打ちは、ほかにいた。キッキングゲームで、リターナーとして活躍した尾崎である。彼の活躍ぶりこそ「括目して待っていた」内容だった。
記録を見ると、彼がボールに手を触れたのはキックオフリターンが1回12ヤード、パントリターンが5回161ヤード。獲得距離も素晴らしいが、そのうち2回が一発TDである。1Q8分37秒の55ヤード、4Q5分10秒の65ヤード。相手に警戒されながら、それでも守備陣を切り裂いて一気にゴールラインまで走り切る走力。ブロッカーを使う巧みなカット。スタンドからもどよめきが上がった。
スペシャリストの面目躍如。こんなプレーは、これから対戦する関大の選手の前で見せずに隠しておきたい、と贅沢なことを考えたほどだった。
思えばファイターズが好成績を残した年には、必ず信頼できるスペシャリストがいた。最近では、甲子園ボウルを制した2007年度卒のスナッパー小林雄一郎君。体が小さく、スタメンを奪うことはできなかったが、ロングスナップのスペシャリストとして欠かせぬ存在だった。ファイターズがキックを選択する場面になるたびに登場し、キッカーの大西君に正確無比なボールを供給、彼の活躍を支えた。その甲子園ボウルで、三原君から起死回生のパスを受け、ファイターズの攻撃を繋げたFB多田羅君も、そのプレーを成功させるためだけに1年間を費やしたようなスペシャリストだった。
昨年のチームでいえば、4年生QBの浅海君がそんな役割を果たしていた。最終の立命戦で披露したバスケットボールのゴールシーンのようなパスも、彼が1年間、WR柴田君らと組んで、磨きに磨いた技だった。
ファイターズには、スタッフを除いても150人もの部員がいる。いくら交代自由のアメフットとはいえ、その全員がプレーヤーとして出場し、チームに貢献するのは難しい。けれども、ひとつでも長所があれば、それを磨き抜くことで道は開ける。背の低い者は誰よりも低いタックルをすることで役割が果たせるし、足の速い者はそれで貢献できる。スナッパーもキッカーも、ホールダーも、一芸を磨くことで、役割を果たせる。
こうしてチームに所属するさまざまなメンバーがそれぞれの役割、居場所を見つけることができれば、チームのモラルも向上する。
そういう考え方で、各人がそれぞれ活躍できる場面を想定し、日々黙々と練習しているのがファイターズである。そのリーダー格の尾崎君が颯爽と走る姿を見て、彼らの活躍の場が広がったことを実感できたことがうれしかった。
リーグ戦は始まったばかり。これから対戦するチームは当然、対策を講じてくるだろうが、その警戒網をかいくぐってさらなる活躍をしてほしい。スペシャリストの活躍が現実になったとき、ファイターズの「日本1」が見えてくるはずだ。
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