石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(15)熊が出た!

投稿日時:2008/08/17(日) 11:59rss

 いやー、びっくりした。生まれて初めて、野生の熊に遭遇した。14日の夕方、東鉢伏山で行われているファイターズの合宿を見学して帰る途中だった。東鉢伏の民宿街を過ぎ、人家が全くない下り坂を車で走っている時に、前を走っている車に気付いて、あわててUターンして山に戻る熊の姿をはっきりと見た。時刻は午後6時過ぎ。夕立のあがった直後で、辺りはまだ明るかった。真っ黒いベルベットのような毛艶、独特の走り方、犬よりも大きい姿がはっきり見えた。それは、紛れもなくテレビや図鑑で見るツキノワグマだった。「こんな所に熊が出るんだ」というのが最初の感想。次に「そういえば、中国山地には熊がいると聞いたことがある。周囲に民家はないし、出没することもあり得る」と思った。「山道を走ってトレーニングしている選手が遭遇したら大変だ」というようなことは、そのときには、全然思い浮かばなかった。この文章を書いているいまになって、その危険性に気付いた。来年からも東鉢伏で合宿をされるのなら、とりあえず山を走る選手は団体でわいわい声を上げながら行動すること、できれば熊除けの鈴を腰にぶら下げることを心掛けてほしい。
 ということで、今回は合宿を見学した感想というか報告である。
 夏合宿の模様については、マネジャー諸兄姉が「リレーコラム」で連日報告されている。あえてその上に付け加えることはないような気もするが、それでもいくつかの場面を報告しておきたい。ファイターズならではの雰囲気を感じ取っていただけるのではないかと思う。
 最初に目に付いたのは、麦藁帽子(大型のパナマ帽かもしれない)をかぶった鳥内監督が率先してグラウンドに水を撒いておられたことである。「これが僕の仕事ですねん」といいながら、午前中の練習時間の大半をホース片手に過ごしておられた。
 それを見て、今度は練習の激励にきておられたOB会長の奥井さんも水まき作業に加わられた。「大物」二人が率先するそうした何げない行動が、選手たちを励まし、暑いグラウンドに清涼感を醸し出していた。
 ほかのOBたちも熱心だ。若手OBが何人も防具を着けて「練習台」になっている。
 奥井OB会長や会長と同期の小笠原さん、甲子園ボウル5連覇当時の名RB谷口さんとは、3年連続この合宿で顔を合わせている。とくに谷口さんは東京在住。この10年、夏合宿のたびに東京から朝一番の「のぞみ」で来阪、泊まりがけで鉢伏にきておられるそうだ。
 「何歳になっても、合宿に来ると気持ちが引き締まります。この夏合宿がある意味ではファイターズを鍛える原点でもあるからでしょう」と谷口さん。毎年、練習を見ていると、自ら鍛えている選手、努力している選手が一目で見分けられるという。逆に、才能を持ちながらそれを生かし切れていない選手を見ると「腹立たしいというか、許せない気持ちになります」と厳しい。
 寄せていただいた日は、合宿5日目。選手たちの気合は思い切り盛り上がっている。コーチ陣のムードもあがっている。明らかに普段の練習とは違う雰囲気がグラウンドを支配している。
 あちこちで厳しい声が飛ぶ。選手同士でも、遠慮がない。よいプレーには思わず拍手が飛ぶし、ミスすれば遠慮なく罵声が浴びせられる。感情が高ぶって泣き出す選手も一人や二人ではない。オフェンスとディフェンスが本気でぶつかり合い、互いにやっつけあう本番さながらのシーンが続く。
 こうなると、グラウンドの雰囲気はいやが上にも盛り上がる。ついには、ラインの1対1のぶつかり合いで、今春入学したばかりの1年生が4年前の主将であり、昨年のW杯代表選手でもある佐岡さんを指名して、まともに対決する場面まであった。
 午後の練習開始直前にカミナリが襲来。激しい夕立にも見舞われて練習開始時間がずれ込み、最後もカミナリで練習を切り上げたが、それでも収穫はたっぷりあった。チームを支配する熱気である。願わくば、この熱気を今後の練習につなげ、チームの底上げをはかってほしい。その勢いを秋のシーズンに持ち込み、試合で鍛えながら終盤の宿敵との戦いに臨んでほしい。
 そこから初めて、甲子園ボウルやライスボウルへの道が開け「社会人に勝って日本1」という目標に迫ることができるのだ。
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