石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(9)準備のスポーツ

投稿日時:2024/09/25(水) 12:28rss

 22日、王子スタジアムで行われた秋のリーグ3戦目は神戸大学との対戦。これが面白かった。相手がアメフットというスポーツの特性を最大限に生かした試合運びで「ハラハラドキドキ」の場面を連発。試合巧者といわれるファイターズの面々を振り回してくれたからだ。
 どういうことか。まずは試合展開を見ていこう。
 先攻はファイターズ。自陣22ヤードから、まずはRB伊丹のラン、QB星野弟からWR五十嵐へのパスでダウンを更新。「おお、いい感じ。今日もこの調子で頑張ってくれよ」と、スタンドから拍手をしていたが、どっこい、相手も対策を練っている。その後の攻撃を抑えて攻守交代。
 ファイターズ2度目の攻撃シリーズもQBの個人技やRBへのパスなどでダウンを更新。あっという間に相手陣に入る。さらにWR百田へのミドルパスを通すが、このプレー中に不正なブロックがあったとして逆に罰退。それでも、五十嵐へミドルパスを通し、48ヤードのフィールドゴールを狙うが、わずかに外れて0-0。攻撃権が相手に移る。
 もどかしい展開のまま試合は第2Qに入る。
 その直後に、守備陣がビッグプレー。LB倉田が相手パスをインターセプト。わずか3プレーで攻撃権を奪う。このプレーに刺激されたのか、今度は攻撃陣が踏ん張る。
 自陣28ヤードからQB星野がWR五十嵐へのミドルパスを決め、RB伊丹が鮮やかなランで相手陣に突入。そこから伊丹が走り澤井が走る。相手の目がRB陣に集まったところで今度はQB星野がライン沿いを駆け上がる。一気に相手ゴール前に進み、仕上げは伊丹が中央を抜けてTD。大西のキックも決まって7-0。
 これでファイターズのペースになるかと思ったが、相手は工夫を凝らしたプレーでガンガン攻めてくる。RBへのパス、WRへの長いパス、合間にランナーを走らせる。隙を見てQBが自ら中央を抜ける。ラン攻撃と見せかけたパス。パスと見せかけたラン攻撃。QBとRB、WRの3者が右に左に展開し、どんどんパスを投げ、自ら走ってくる。ファイターズ守備陣の反応の速さを逆手に取ったようなプレーで陣地を進める。前半残り1分ほどとなったところでフィールドゴールを決めて7-3。一気にチームのムードが高まる。
 しかし、ファイターズも受け身になっているだけではいられない。相手守備陣の反応の速さを逆手に取ったRB陣への短いパスを立て続けに決め、なんとかフィールドゴールを狙える位置まで陣地を進める。前半、残り時間28秒。ボールは相手ゴール前28ヤード。「決めて当然」というプレッシャーの中でK大西が見事にフィールドゴールを決め10-3で前半終了。
 試合は後半に入っても似たような展開。互いに守りあってなかなか点が入らない。3Qは0-0、4Qは10-6。互いに持ち味を発揮して相手攻撃陣を食い止め、20-9でファイターズが勝った。
 しかし、スタンドから見ている僕は、この試合に備えた神戸大の周到な準備にひたすら驚き、そういう準備が試合で発揮できる力をつけていることに感服した。ファイターズ守備陣の反応の速さを逆手にとり、右と思えば左に、左と思えば右を狙い、RBを走らせると見せかけてパスを投じる。合間にQBがWRをブロッカーにして一気に駆け上がる。RBにもWRにも機敏な選手がいるから、守備陣はだれをマークすればいいのか頭が混乱する。守る方にとっては厄介な手法でガンガン攻めてくるから、守備陣の対応もより難しくなる。
 攻める側は、そういう準備に充分時間がさけるが、守備陣はその場、その場で瞬時に判断し、行動するしかない。事前の準備と考える力が勝敗に直結するアメフットの特徴を生かした神戸大の選手とベンチの「力」に、思わず「脱帽」という気分だった。
 アメフットは「知的スポーツ」と形容される。長年、ファイターズの戦い振りを観戦してきた中で、その言葉を実感する機会がいくつもあった。全盛期の日大との戦い、フットボール知能と根性が合体した京大、才能あふれる高校生を次々と獲得して一時代を築いた立命を相手に、苦しい戦いを強いられ、「創意と工夫」「準備の徹底」に活路を見出してきたファイターズにとって、今度は「フットボールは準備のスポーツ」と腹をくくって挑んできた神戸大もまた厄介な相手になるのではないかと考えた。
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