石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(3)大きな収穫
20日は、王子スタジアムで中央大学との交流戦。今季の第3戦だが、その先発メンバーに今春、入学したばかりの1年生2人が名前を連ね、共に目を見張るような動きを見せてくれた。
一人はWRの小段天響君(大産大)。もう一人はDBのリンスコット・トバヤス君(箕面自由)。いつもの年なら、新入生はまだ基礎体力作りの段階で、チーム練習に参加できるのはほんの数人。試合に出場するのも、ある程度身体が出来てからのJV戦というのが通例だった。今季も例外ではなく、二人とも5月に入ってから練習メンバーに入ったばかり。とりわけ、リンスコット君の本職はQB。DBの練習を始めてからでは2週間にも満たない。
そんな二人が先発メンバーとして起用された。ファイターズ応援歴半世紀以上という僕も、応援仲間も、全員びっくり。「これはどういうこと。そんなに素晴らしい選手なのか」と、試合前から盛り上がる。
「第3フィールドでの練習を見ているだけだが、二人とも素晴らしい動きをしている。コーチや監督の発言からも、期待の大きさがうかがえる。僕のような素人が見ても、そのセンスの良さには目を見張る。共に高校時代から注目されてきた選手であり、度胸もありそうだ。きっと期待に応えてくれるだろう」と答えたが、共に期待に違わぬ活躍。とりわけ小段君は、先発QB星野君との相性も良く、見事なレシーブで先制点を挙げてくれた。
その場面を見て、思わず、亡くなられて久しい斎藤喜博先生の言葉を思い出した。「君の可能性」という言葉である。
新聞記者生活55年。途中、支局長とか論説委員、編集委員、さらには地方紙の編集局長とかいう名前の名刺を持って働いたが、その間、ずっと記事や論評を書き続けてきた。それを支えてきたのがこの言葉である。
先生と初めてお会いしたのは1971年の春。3年近く働いた信濃毎日新聞を辞し、朝日新聞での初任地・前橋支局でのことだ。初めて自宅を訪れた時から先生の懐に飛び込み、その教授法の勉強会にも参加した。先生の著書も読みふけり、「可能性を引き出す教育」について大きな影響を受けた。
先生に「一つのこと」という詩がある。全文を紹介しよう。
いま終わる一つのこと
いま越える一つの山
風わたる草原
ひびきあう心の歌
桑の海光る雲
人は続き道は続く
遠い道はるかな道
明日のぼる山もみさだめ
いま終わる一つのこと
この詩について、先生は次のように説明されている。
…この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
続けて、こんな説明もある。
…ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
この説明は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。この日の試合で鮮烈なデビューを果たした二人の1年生だけではなく、昨年から試合に出続ける選手も、それを支える選手やスタッフも、粘り強く、困難にくじけない心と身体をつくってチームを支えていく。
その積み重ねが、有能なタレントをそろえたこの日の相手にも発揮されたのではないか。後半開始早々、96ヤードのキックオフリターンTDを決めたRBの伊丹君。相手のラン攻撃を再三、強く素早い当たりで食い止めたLBの永井君やDBの波田君、2年生DB東田君はその長身を生かして相手のパスをカットし続けた。みな日頃から目的を持った練習に励み、自らの可能性を拓いてきたからこその成果ではないか。
黙々と好守の最前列で身体を張り続けたメンバーを含め、それぞれのポジションに、そういうお手本になるようなプレーを見せてくれる選手がいるからこそ、強力なタレントをそろえた相手にもチームとして対抗できる。それがファイターズの強みであり、チームの底上げにもつながっているのではないか。
もちろん自軍の戦力や個々の選手の力量を冷静に見極めるベンチの目も鋭い。双方が相まって、好守共に優秀な能力を持ったメンバーをそろえた相手に、終始主導権を渡さず、試合を進めることができたのではないか。
高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習する。高い目標を達成するためにはどんな努力もいとわず、日々、努力を続ける。そういう経験がより高いもの達成するための道を拓いてくれる。
そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。そう考えると、4月に入部したばかりの新人を先発メンバーに起用し、新入生もその期待に応えたというこの日の試合は、チームにとっても大きな収穫になったに違いない。
一人はWRの小段天響君(大産大)。もう一人はDBのリンスコット・トバヤス君(箕面自由)。いつもの年なら、新入生はまだ基礎体力作りの段階で、チーム練習に参加できるのはほんの数人。試合に出場するのも、ある程度身体が出来てからのJV戦というのが通例だった。今季も例外ではなく、二人とも5月に入ってから練習メンバーに入ったばかり。とりわけ、リンスコット君の本職はQB。DBの練習を始めてからでは2週間にも満たない。
そんな二人が先発メンバーとして起用された。ファイターズ応援歴半世紀以上という僕も、応援仲間も、全員びっくり。「これはどういうこと。そんなに素晴らしい選手なのか」と、試合前から盛り上がる。
「第3フィールドでの練習を見ているだけだが、二人とも素晴らしい動きをしている。コーチや監督の発言からも、期待の大きさがうかがえる。僕のような素人が見ても、そのセンスの良さには目を見張る。共に高校時代から注目されてきた選手であり、度胸もありそうだ。きっと期待に応えてくれるだろう」と答えたが、共に期待に違わぬ活躍。とりわけ小段君は、先発QB星野君との相性も良く、見事なレシーブで先制点を挙げてくれた。
その場面を見て、思わず、亡くなられて久しい斎藤喜博先生の言葉を思い出した。「君の可能性」という言葉である。
新聞記者生活55年。途中、支局長とか論説委員、編集委員、さらには地方紙の編集局長とかいう名前の名刺を持って働いたが、その間、ずっと記事や論評を書き続けてきた。それを支えてきたのがこの言葉である。
先生と初めてお会いしたのは1971年の春。3年近く働いた信濃毎日新聞を辞し、朝日新聞での初任地・前橋支局でのことだ。初めて自宅を訪れた時から先生の懐に飛び込み、その教授法の勉強会にも参加した。先生の著書も読みふけり、「可能性を引き出す教育」について大きな影響を受けた。
先生に「一つのこと」という詩がある。全文を紹介しよう。
いま終わる一つのこと
いま越える一つの山
風わたる草原
ひびきあう心の歌
桑の海光る雲
人は続き道は続く
遠い道はるかな道
明日のぼる山もみさだめ
いま終わる一つのこと
この詩について、先生は次のように説明されている。
…この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
続けて、こんな説明もある。
…ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
この説明は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。この日の試合で鮮烈なデビューを果たした二人の1年生だけではなく、昨年から試合に出続ける選手も、それを支える選手やスタッフも、粘り強く、困難にくじけない心と身体をつくってチームを支えていく。
その積み重ねが、有能なタレントをそろえたこの日の相手にも発揮されたのではないか。後半開始早々、96ヤードのキックオフリターンTDを決めたRBの伊丹君。相手のラン攻撃を再三、強く素早い当たりで食い止めたLBの永井君やDBの波田君、2年生DB東田君はその長身を生かして相手のパスをカットし続けた。みな日頃から目的を持った練習に励み、自らの可能性を拓いてきたからこその成果ではないか。
黙々と好守の最前列で身体を張り続けたメンバーを含め、それぞれのポジションに、そういうお手本になるようなプレーを見せてくれる選手がいるからこそ、強力なタレントをそろえた相手にもチームとして対抗できる。それがファイターズの強みであり、チームの底上げにもつながっているのではないか。
もちろん自軍の戦力や個々の選手の力量を冷静に見極めるベンチの目も鋭い。双方が相まって、好守共に優秀な能力を持ったメンバーをそろえた相手に、終始主導権を渡さず、試合を進めることができたのではないか。
高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習する。高い目標を達成するためにはどんな努力もいとわず、日々、努力を続ける。そういう経験がより高いもの達成するための道を拓いてくれる。
そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。そう考えると、4月に入部したばかりの新人を先発メンバーに起用し、新入生もその期待に応えたというこの日の試合は、チームにとっても大きな収穫になったに違いない。
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