石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(19)良寛の修行時代
本当は忙しいはずなのに、毎晩、狂ったように本を読んでいる。
「こんな日本でよかったね」(内田樹・バジリコ)「戦後詩」(寺山修司・ちくま文庫)「名文を書かない文章教室」(村田喜代子・朝日文庫)「センセイの鞄」(川上弘美・文春文庫)「溺レる」(川上弘美・文春文庫)「日本浄土」(藤原新也・東京書籍)「新聞と戦争」(朝日新聞「新聞と戦争」取材班・朝日新聞出版)「くろふね」(佐々木譲・角川文庫)「長谷川伸傑作選・股旅新八景」(長谷川伸・国書刊行会)「別冊太陽・良寛」(平凡社)……。
9月になって読んだうち、再読本も含めて面白かった本を並べてみた。われながら、支離滅裂な読書である。乱読という範畴さえ越えているかもしれない。このほかに、新刊で手頃な本が見あたらなかったら、昔読んだ藤沢周平を引っ張り出して読んでいるのだから、「狂ったように」というのも言い過ぎではなかろう。
乱読しているうちに、時々、気になる言葉やエピソードに出会う。今回は、江戸時代の禅僧・良寛(1758~1831)の修行僧時代の話である。
さきの「別冊太陽・良寛」に紹介されている仁保哲明氏の論文によると、彼は22歳から34歳まで岡山県・玉島の円通寺で修行をした。毎朝3時に起床、夜9時に就寝するまで、日に3回の座禅を組み、その合間に清掃や読経、時には托鉢を続ける厳しい日課だったという。
座禅のときは誰よりも早く座に着き、師の講義にも遅れたことはない。真面目一徹な修行ぶりだったが、一人、気になる法兄(兄弟子)がいた。
彼は「座禅もせず、経も読まず、宗文一句たりとも語らず、ただひたすら畑仕事をして野菜を作り、典座として調理し、ふるまった」「典座はみなより早く起床し、朝食の準備にかかり、みなが座禅や読経をしているときもほとんど庫裏(台所)を離れることはない」「食事を作らせていただけることを喜びとし(喜心)、食べる人の身になって作り(老心)、自分を捨て、いまするべきことする(大心)典座という修行を一徹に貫いた」と仁保氏は紹介されている。
良寛は当時、この兄弟子の真価が分からなかったそうだが、後に彼こそ真の道者だったと讃嘆し、自分は到底及ばぬといって、彼をたたえる詩を作っている。
喜心、老心、大心。この話をファイターズというチームに置き換えて考えると、なかなか深い味わいがある。試合に出て活躍できるように鍛錬するだけが修行ではない。座禅を組み、師の講義を聴き、托鉢に出掛け、知識を蓄えるという修行もあれば、後輩の食事を作らせていただけることに喜びを感じ、自分を捨てる、という修行もあるのだ。
ファイターズでいえば、マネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフの仕事がそれに相当するだろう。練習台になって、レギュラーの面々を鍛える選手たちがいなければ、チーム力の向上はおぼつかない。試合に出る機会のない1、2年生に対し、自分を捨てて懇切丁寧に指導する上級生の存在がなければ、200人の部員がいてもチームの底上げは難しい。
ファイターズが真のファイターズであるためには、そういう世間の人の目に触れないところで、それぞれの役割を「喜んで」「仲間の身になって」「自分を捨てて」行う存在が必要不可欠なのである。
良寛が修行をした円通寺には「一に石を曳(ひ)き、二に土を搬(はこ)ぶ」という家風があったそうだ。つまらぬ理屈を言わず、ひたすら座禅をし、作務(勤労)修行をしなさい、という意味だそうな。真理は座禅をする僧堂(グラウンド)にもあるが、料理をつくる台所にも、掃除をする廊下にも、草むしりをする庭にも、至るところ、まんべんなくあるのだという。
小難しい話になった。けれども「アメフットを通じてよき人間を作る」という目的を掲げたファイターズ、そこで活動する諸君にとっては、何かと心強い話だと思って紹介させていただいた。
「こんな日本でよかったね」(内田樹・バジリコ)「戦後詩」(寺山修司・ちくま文庫)「名文を書かない文章教室」(村田喜代子・朝日文庫)「センセイの鞄」(川上弘美・文春文庫)「溺レる」(川上弘美・文春文庫)「日本浄土」(藤原新也・東京書籍)「新聞と戦争」(朝日新聞「新聞と戦争」取材班・朝日新聞出版)「くろふね」(佐々木譲・角川文庫)「長谷川伸傑作選・股旅新八景」(長谷川伸・国書刊行会)「別冊太陽・良寛」(平凡社)……。
9月になって読んだうち、再読本も含めて面白かった本を並べてみた。われながら、支離滅裂な読書である。乱読という範畴さえ越えているかもしれない。このほかに、新刊で手頃な本が見あたらなかったら、昔読んだ藤沢周平を引っ張り出して読んでいるのだから、「狂ったように」というのも言い過ぎではなかろう。
乱読しているうちに、時々、気になる言葉やエピソードに出会う。今回は、江戸時代の禅僧・良寛(1758~1831)の修行僧時代の話である。
さきの「別冊太陽・良寛」に紹介されている仁保哲明氏の論文によると、彼は22歳から34歳まで岡山県・玉島の円通寺で修行をした。毎朝3時に起床、夜9時に就寝するまで、日に3回の座禅を組み、その合間に清掃や読経、時には托鉢を続ける厳しい日課だったという。
座禅のときは誰よりも早く座に着き、師の講義にも遅れたことはない。真面目一徹な修行ぶりだったが、一人、気になる法兄(兄弟子)がいた。
彼は「座禅もせず、経も読まず、宗文一句たりとも語らず、ただひたすら畑仕事をして野菜を作り、典座として調理し、ふるまった」「典座はみなより早く起床し、朝食の準備にかかり、みなが座禅や読経をしているときもほとんど庫裏(台所)を離れることはない」「食事を作らせていただけることを喜びとし(喜心)、食べる人の身になって作り(老心)、自分を捨て、いまするべきことする(大心)典座という修行を一徹に貫いた」と仁保氏は紹介されている。
良寛は当時、この兄弟子の真価が分からなかったそうだが、後に彼こそ真の道者だったと讃嘆し、自分は到底及ばぬといって、彼をたたえる詩を作っている。
喜心、老心、大心。この話をファイターズというチームに置き換えて考えると、なかなか深い味わいがある。試合に出て活躍できるように鍛錬するだけが修行ではない。座禅を組み、師の講義を聴き、托鉢に出掛け、知識を蓄えるという修行もあれば、後輩の食事を作らせていただけることに喜びを感じ、自分を捨てる、という修行もあるのだ。
ファイターズでいえば、マネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフの仕事がそれに相当するだろう。練習台になって、レギュラーの面々を鍛える選手たちがいなければ、チーム力の向上はおぼつかない。試合に出る機会のない1、2年生に対し、自分を捨てて懇切丁寧に指導する上級生の存在がなければ、200人の部員がいてもチームの底上げは難しい。
ファイターズが真のファイターズであるためには、そういう世間の人の目に触れないところで、それぞれの役割を「喜んで」「仲間の身になって」「自分を捨てて」行う存在が必要不可欠なのである。
良寛が修行をした円通寺には「一に石を曳(ひ)き、二に土を搬(はこ)ぶ」という家風があったそうだ。つまらぬ理屈を言わず、ひたすら座禅をし、作務(勤労)修行をしなさい、という意味だそうな。真理は座禅をする僧堂(グラウンド)にもあるが、料理をつくる台所にも、掃除をする廊下にも、草むしりをする庭にも、至るところ、まんべんなくあるのだという。
小難しい話になった。けれども「アメフットを通じてよき人間を作る」という目的を掲げたファイターズ、そこで活動する諸君にとっては、何かと心強い話だと思って紹介させていただいた。
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