石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(15)我慢の勝利、勇気の力

投稿日時:2022/11/29(火) 14:36rss

 27日、吹田市の万博記念競技場で行われた関西リーグ最終戦・立命館大との戦いは、互いに力を出し合い、身体をぶつけ合う熱戦。リーグの王者を決めるにふさわしい戦いとなった。
 今季、最終戦を前にしてファイターズは6勝0敗。対して、立命は関大に敗れ、関大は関学に敗れてそれぞれ1敗を喫している。しかし、この日の試合で関学が敗れると、3者がそれぞれ6勝1敗となって同率優勝。甲子園ボウルへの出場権は、3者の抽選で決めるということになっている。立命は何が何でも勝たなければならない試合。対する関学も勝ちきって無条件での甲子園出場を果たしたい。それ以前に、この20年余り、関西、いや日本の学生フットボール界を牽引してきたトップチームの歴史とプライドを賭けた試合である。勝ちたい、負けられない、という気持ちは、フィールドに立つ選手全員が共有していたことだろう。
 もちろん、監督やコーチ、そしてチームを支えるスタッフらも、この試合に備えて万全の準備を整え、知恵を絞ってこられたに違いない。
 コイントスで勝った関学がレシーブを選択し、関大のキックで試合開始。自陣24ヤードから始まったファイターズ最初のアタックはQB星野のキーププレー。1年生とは思えない落ち着いた動きで6ヤードを前進。続けてRB伊丹が走ってダウンを更新。
 これでパスが決まればペースがつかめる、と思ったが、相手の守りは想像していた以上に堅い。結局はパントに追いやられる。
 守りが堅いのはファイターズも同様だ。相手の第1プレーをDLトゥロター・ショーン礼が素晴らしい突っ込みで封じ込め、これまたパントに追いやる。さらに立命の第2シリーズでも守備陣の踏ん張りが目につく。DL浅浦がラッシュし、相手が浮かせた球をショーンが確保してインターセプト。試合後、大村監督が「守備は100点。ショーンはいいし、海崎の穴を永井が完全に埋めてくれた」と絶賛されていたが、その一端が試合開始早々から目についた。
 対する立命の守備も強固だ。ファイターズのRBが持つボールへタックルしてファンブルを誘ってリカバーし、すぐさまインターセプトの返礼。互いに守備陣が踏ん張り、あっという間に第1Qが終了する。
 第2Qに入っても、ファイターズは押し気味。だが、フィールドゴールの失敗などもあってスコアは0-0のまま。
 試合を動かしたのはファイターズの1年生QB星野。自ら走ると同時に、WR衣笠、RB前島、WR糸川へ次々とパスを決めてゴール前1ヤード。そこから糸川に1ヤードのパスを決めてTD。キックも決まって7ー0と均衡を破る。
 後半に入ると立命が攻勢に出る。自陣20ヤード付近からパス中心で陣地を進め、ファイターズの陣地に迫る。ここでも守備陣が健闘し、相手もFGを狙うしかなくなったったが、ここでファイターズに手痛い反則。ホールディングを取られ、ゴール前3ヤードからの攻撃を許す。相手は難なくTD。しかし、相手はすでに1敗を喫しており、引き分けでは優勝はおぼつかない。勝つことが至上命題とあって、当然のように2点を狙ってきた。
 だが、ファイターズ守備陣の意気は高い。それを見事に防いで試合は7-6。
 1点差のまま第4Qに入り、迎えたファイターズの攻撃は自陣46ヤード付近から。わずか1点とはいえ、リードしている側は時間を消費しながらの攻撃が中心になる。その期待に応えてRB伊丹、前島が機敏な走りで陣地を進める。エースWR糸川までがランナーとして走るのだから、「時間を消費しながら攻める」というベンチの意図は徹底している。選手もよくそれに応え、陣地を進める。仕上げはゴール前25ヤード付近からのFG。K福井が決めて10-6。
 残り時間は5分24秒。リードを守る方には長く、追いかける方には短い時間である。当然追いかける方はパス中心のプレーになるが、守る方もそれを予期している。パスを投げる側に強烈なプレッシャーを掛け、自由に投げさせないようにする。
 そうなると、勝つも負けるも守備陣の対応次第。「この日は100点の出来」と監督に賞賛された守備陣が相手QBに圧力をかけ続け、完全に試合をコントロールして10-6のまま試合終了。ファイターズが全勝でリーグ戦を締めくくった。
 以上、試合の経過を追ってきたが、最後に僕の個人的な感想を一つ。それは、誰よりも積極的な姿勢で練習してきた下級生がこの日の試合で躍動したことである。
 ファイターズはいつの時代も「4年生のチーム」と呼ばれる。実際、今年も攻守共に4年生が中心になってチームを牽引してきた。オフェンスでは牛尾や小林、糸川、梅津、河原林らのWR陣、デフェンスではこの日も大活躍したDL山本、LB浦野らの名前がすぐに思い浮かぶ。
 けれども、4年生だけでは勝てない。下級生の底上げが常に求められる。
 僕が日頃、練習を見学させて頂く中で、常に注目しているのが、いつも前向きに練習に取り組む下級生、とりわけ新入部員と故障明けの選手の存在である。新入生といえば、この日先発したQBの星野、DBの東田(もっとも、彼とは言葉を交わしたことがない。背の高いDBとして注目しているだけだ)。昨年でいえば、LB永井(彼はスポーツ推薦入試の小論文の勉強会で、いつも気合いのこもった文章を書いていた)。
 故障上がりといえばこの日、大活躍したDLショーンやOL近藤らの名前が浮かぶ。それぞれが必死になって練習に取り組み、一つ一つのプレーを身に付けよう、より強く、より素早く動けるようになろうと励む姿を見て、常に心の中で「頑張れよ。君たちの取り組みは、必ず神様が見てくれている」とエールを贈っていた。
 その選手らが素晴らしい活躍をしてくれた。わがことのように嬉しい。
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