石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(10)負けないチーム

投稿日時:2021/12/21(火) 08:44rss

 ファイターズは今季も甲子園ボウルで勝ち、4年連続32度目の大学日本1に輝いた。相手は東日本代表の法政。選手個々の力では多分、ファイターズに勝るとも劣らない強力なメンバーをそろえたチームだったが、終わってみれば47-7。得点差だけを見れば、ファイターズの圧勝だった。
 しかし、現場で観戦していると、到底、点差ほどの実力差は感じられなかった。というより、個々の力量では法政の方に分があると思わされる場面が何度も訪れた。
 なのに、なぜ、一方的な試合展開になったのか。その原因を一つ一つ見ていくことがファイターズというチームを知ることになり、「勝つべくして勝てるチーム」の素顔を明らかにすることにつながるのではないか。そのように考え、この試合で印象に残った場面を順を追って回顧してみた。
 1、先制のTD
 立ち上がり、キックを選択した法政がいきなり2度のキックミスで計10ヤードの罰退。リターナーに入ったWR河原林の好リターンもあって、ファイターズは相手陣46ヤードからの攻撃となる。その第1プレー。QBからの短いパスを受けたRB斎藤が俊敏な動きで約30ヤード前進。2プレー目、今度はRB前田のランでダウンを更新し、続く3プレー目も斎藤。鎌田からピッチを受け、ラインの開けた穴をスピードで突き抜けてTD。K永田のキックも決まって7ー0とリードする。
 このように書くと、いかにも簡単なようだが、そこには短いパスは必ず通すQBと、その期待に応え、確実にパスをキャッチするRB、ラインの開けたわずかな隙間を一気に走り抜けるRBのスピードとパワー、それを支えるOLやWRの確実なブロック。グラウンドに出ている11人全員がそれぞれの役割を完璧に果たしたからこその先制点であり、キッカーが確実にTFPを決めたからこその7点であることがよく分かる。
 2、貴重な追加点
 ファイターズに待望の追加点が入ったのは、自陣20ヤードから始まった3度目の攻撃シリーズ。まずはWR鳩谷がQB鎌田からのパスをキャッチして24ヤードの前進。斎藤のランを挟んで次はWR糸川が20ヤードを稼ぐ。さらに斎藤のラン、WR戸田のパスキャッチなどで相手ゴール前12ヤードに迫る。しかし、相手ディフェンスも強く、そこからの攻撃が続かない。結局、永田のFGで3点を追加しただけだったが、この3点と2Q終了間際に得たFGによる3点が無形の圧力を相手陣に与える。
 3、相手の反撃
 第3Qに入ると、状況は一転する。それまで不発だった法政のパス攻撃が決まり始め、それと呼応するようにエースRBの動きも鋭くなる。わずか5プレー目にRBが42ヤードを独走し、TD。キックも決めて13-7。この得点をきっかけに、一気に相手の動きが良くなってくる。
 逆にファイターズはWR河原林への42ヤードパスで陣地を進めたものの、次のプレーで手痛いインターセプトを食らう。勢いに乗った相手は立て続けに3度、ダウンを更新し、関学陣18ヤードまで攻め込んで来る。
 ここで奮起したのが守備陣。LB都賀を中心に2列目、3列目が必死になって反撃を食い止める。第4ダウン、残り20ヤードとなったところで相手はFGトライ。しかし、そのキックが外れてようやく窮地を脱する。
 4、一瞬の隙
 次のファイターズの攻撃は自陣20ヤードから。窮地は脱したものの、相手の士気は高い。守備陣はボールキャリアに的を絞ってアグレッシブな動きを見せる。しかし、ファイターズオフェンスもは負けてはいない。相手の逆をついてRB斎藤が6ヤード、同じく池田が6ヤードと陣地を進めてダウンを更新。相手の意識がランプレーに移ったのを見計らったようなタイミングで、今度はQB鎌田がレシーバーの位置で待ち構える前島に短いパス。それをキャッチした前島が左サイドライン際を駆け上がる。WR河原林が一人で2度、続けさまに相手デフェンス陣をブロックする美技もあって、見事68ヤードのTDに結びつける。走る方も素晴らしかったが、ブロックする方も見事なファインプレー。QBとしてもRB、WRとしても非凡な能力を持つ前島の走力を生かし、身体が大きくブロッカーとしても力のある河原林の長所を生かす見事なプレー選択。サインを出したベンチの面々もしてやったりというところだろう。
 5、もう一つのドラマ
 この得点が大きかったのだろう。点差が開いてからは相手の攻撃が雑になり、淡泊になっていく。逆にファイターズの守備も攻撃陣もより勢い付く。第4Q早々には、K永田が西からの強風を突いてこの日4本目のFGを決めて26-7。好守共に勢いに乗るファイターズは攻撃の手を緩めない。鎌田からショベルパスを受けた斎藤が28ヤードを走りきってTD。さらには鎌田からWR鈴木へという2年生コンビのTDパスも決まって40ー7。あっという間に勝敗は決した。
 しかし、ファイターズファンにとっては見逃せないドラマがこの後に待っていた。残り時間は3分6秒。ボールの位置は相手ゴール前17ヤードという場面で、4年生QB平尾が登場。普段、試合に出ることの少ない4年生もこぞって顔を並べたのである。まずはRB安西が5ヤードのラン。続くWR戸田へのパスがインターフェアとなり、ゴール前2ヤードまで前進。その距離を平尾が走りきってTD。3塁側アルプス席のファイターズファンから大声援が上がる。
 下級生の頃から期待されてきた平尾だったが、最終学年の今季は2年生QBに追い越され、ずっとJVチームの司令塔としての役割に徹してきた。練習時間の多くをVチームの仮想敵の役割に費やし、余った時間はフレッシュマンの指導に全力を注いできた。今季はたまにしかグラウンドに顔を見せることはできなかったが、下級生を相手に懸命にパスを投げ、後輩の育成に本気で尽くしてる彼の姿を見るたびに、僕は「こういう4年生がいるからこそ、チームが強くなる。これこそ縁の下の力持ち。甲子園で出番が来たら、たとえ1プレーでもよい。思いっきりプレーをしてくれ」と密かに願っていた。
 その願いが通じたような見事なTD。それも自ら中央を割ってゴールに飛び込む素晴らしいプレーだった。
 日の当たらないところでも、彼のように献身的にチームに尽くすメンバーがいるからこそ、ファイターズは勝てる。常々、そのように思い続けてきた僕の信頼に応えるプレーを目の前で見て、本当にうれしかった。
 その気持ちは、普段から彼の行動を熟知しているチームメートも同じだったようだ。試合終了後、表彰式の壇上には、彼がただ一人控えのメンバーから選ばれ、主将の青木やチャック・ミルズ杯受賞者の前田、甲子園ボウル最優秀選手賞受賞者の斎藤らと並んで勝利したチームに贈られるトロフィーを掲げていた。
 6、結び
 関西リーグで死闘を繰り広げた関大戦、立命館との2度の決戦、そして甲子園ボウルでの法政大戦。いつも相手の強さ、たくましさを目の当たりにするたびに、なぜ、こんな強敵を相手にファイターズが勝ち続けられるのだろうかと、僕は自分に問い掛けてきた。
 その答えがこの日の甲子園では、次々に解き明かされた。仲間を信じて黙々とブロッカーの役割を展開するWR、前日までは練習にも加われず、松葉杖をついて歩いていたのに、芝生の上に立ち、ボールを持つと果敢に相手陣に突っ込むRB、最前線で身体を張り続ける攻守のラインメン。自身は先発メンバーから外れているのにVチームや後輩のために黙々とパスを投げ続ける4年生QB。そして、どんな強風にも負けず、正確なパントやキックを決め続けるキッカー。さらにはチームの兵站部門を黙々と担う男女のマネジャーやトレーナー。
 そうしたメンバーすべてに、分け隔てなく活躍する場所を与えるチーム。そこにファイターズというチームの真実があり、だからこそ強力な陣容を備えたライバルたちを凌駕できたのではないか。
 そう考えると、このチームを応援する気持ちがまた一段と強くなった。来季もまた、頑張ろう!
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