石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(8)「勝つべくして勝つ」

投稿日時:2021/12/06(月) 22:03rss

 「勝つべくして勝つ」「勝つべくして勝てるチーム」。この言葉を今季、大村監督や4年生の幹部からよく聞かされてきた。
 5日、大阪・ヨドコウ桜スタジアムで行われた西日本代表校決定戦でのファイターズの戦いを応援している時、何度もこの言葉が浮かんできた。
 それほどファイターズの戦い方は愚直であり、攻守ともに全員が一致団結していた。
 ファイターズのキックで始まった立ち上がり。自陣24ヤードから始まった立命の攻撃を簡単に抑え込んだファイターズの攻撃は自陣48ヤードから。
 RB前田が立て続けにラッシュして第3ダウン。残り5ヤードをどう進めるかという場面でベンチが選択したのは、QB鎌田からWR鈴木への長いパス。ゴール前1ヤードで鈴木がキャッチし、一気に先制点のチャンス。60ヤード近い距離をドンピシャのタイミングで投げ込んだ鎌田もすごいが、それを鮮やかに確保した鈴木も素晴らしい。ともに2年生だが、今季は二人ともシーズン開幕時から先発メンバーとして出場しているだけに、呼吸はぴったり。立命相手の大舞台でも臆さず、ひるまず「投げるべくして投げ」「捕るべきして捕った」見事なプレーだった。
 この好機にRB前田が中央を突いてTD。K永田のキックも決まり、わずか4プレーで7ー0とリードした。
 逆に立命は、先発した2年生QBのパスが不安定で、思うように陣地が進まない。一方、相手守備陣はさすがである。次のファイターズの攻撃シリーズで、FGをブロックする好守を見せた。だが、ファイターズ守備陣も即座にやり返す。相手QBが自陣20ヤードから投じた短いパスをLB海崎が鋭い反応で奪取。攻撃権を奪い返し、相手ゴール前10ヤードまで走り込む。
 こうなると、ファイターズは勢いに乗る。小柄なRB斎藤がピッチを受け、俊敏な動きでゴールラインに駆け込みTD。永田のキックも決まって14-0と主導権を握る。
 ふと気がつけば、ここまで書いた中で固有名詞を挙げたのは6人。そのうち4年生は前田と斎藤、そして永田。いずれもエースランナーであり、エースキッカーだから、名前が挙がって当然だ。けれども、そこに2年生の3人、固有名詞を挙げればQB鎌田、WR鈴木、LB海崎が割り込んでいる。3人とも3年前の夏、スポーツ選抜入試に備えて僕が共に勉強したメンバーである。この日、先発に名を連ねたDB高橋もそうだし、1年生で先発したDB永井もその1年後のメンバーだ。高校時代、多少とも縁のあったメンバーがこの大舞台で先輩たちに負けず劣らず活躍しているのを、僕は感慨を持って見つめていた。
 余談は置いて試合に戻ろう。
 前半は17ー3、ファイターズがリードして折り返したが、相手には地力がある。第3Q立ち上がり早々、相手にパスをインターセプトされ、あっという間にTDを返される。キックも決まって17-10。
 これはやばいぞ、逆転の目が出てきたと思ったのは僕だけではなかろう。しかし、グラウンドでプレーするメンバーはそんな感情とは一切無縁。勝つべくして勝つ、とばかりにRB斎藤と前田が競うようにランプレーで陣地を進め、わずか5プレー目で前田がTD。永田のキックも決まって24ー10と引き離す。
 こうなれば、互いに乱打戦。相手も途中から出場したエースQB、野沢の的確なパスで陣地を進め、わずか1分半ほどの攻撃でTD。再び7点差に追いすがる。そのすさまじい攻撃力を目の当たりにして、ここが救世主の出番だ、守備も攻撃も、もう一歩踏み込んで頑張れと手に汗握りながら祈る。
 その祈りに応えてくれたのが、またしてもRBの二人。まずは斎藤がナイスリターンで自陣43ヤードまで挽回。ここから前田が大きく逆サイドに切り返して相手ゴール前17ヤードまで進む。ここでボールを抱いて走ったのがまたも斎藤。浮き足立つ相手守備陣を翻弄するような走りで一気にゴールまで駆け込みTD。
 相手のパスにはランで真っ向から立ち向かう。相手の対策には関係なく、自軍のラインとRB、レシーバーが総力を挙げてこじ開けたルートを一気に駆け抜ける。「勝つべくして勝つ」という気持ちのこもったプレーの連続で、再びリードを広げる。
 逆に、リードされている側には焦りが出る。ミドルパスを立て続けに決め、パント隊形からのギャンブルで陣地を進めるが、ファイターズは動じない。逆に相手がファンブルしたボールをDL山本が素早い動きで奪取し、攻守交代。
 それでも、ひるまないのが立命の立命たるところ。ファイターズを切りくずのはパス、と腹をくくったのか、ビシバシと長いパスを投じてくる。第3Q終了間際には40ヤード近いパスが決まってTD。31ー24と追い上げる。
 差は7点。相手の勢い、威力のあるパス攻撃。この状況をどう突破するか、というところで飛び出したのがDB永嶋のインターセプト。相手陣33ヤードから投じられたパスを見事に奪い取り、チームをに落ち着かせる。
 こうなると攻撃陣も奮起する。鎌田からの短いパスを受けたRB斎藤が相手陣に切れ込み、ダウン更新。TDこそ奪えなかったが、K永田が43ヤードのキックを決めて再び差を10点に広げる。
 残り時間は9分少々。相手のパス攻撃の鋭さを考えると、まだまだ安心できない状況だったが、ここでファイターズDBが奮起。相手レシーバーがはじいたパスをDB宮城が奪い取り、インターセプト。残り時間は9分を切っており、ここからは時間との勝負になる。ファイターズはランプレーで時計を進め、立命はタイムアウトで時計を止める。虚々実々の駆け引きだが、それでも時計は進む。途中、焦る相手がスナップをファンブルし、これをDL山本が確保して攻撃権を取り戻す場面もあり、最後はファイターズが2回続けて「ボールイート」。34ー24のまま試合は終了した。
 まさに好守が互いに助け合い、補い合って作り出した「我慢の勝利」だった。こういう我慢ができたのも、好守共に4年生を中心にして「勝つべくして勝つ」意識が浸透していたからだろう。有言実行。多分、潜在力では上回っていると思える強敵を相手に、それを成し遂げたファイターズの諸君に心からおめでとう、よく頑張った、と伝えたい。
 以下は余録。
 伝えたいことがもう一つある。それは試合の終盤、相手レシーバーがパスをキャッチしようとして崩れ落ち、動けなくなった場面である。プレーの直後に、その選手のカバーに入っていたDBの波田君が駆け寄り、選手のつった足を持ち上げて手当てをする場面があった。目の前で苦しんでいる選手を放置できなかったのだろう。とっさの行動であり、ルール上は許される行為かどうかは知らないが、審判が黙認していたから、特段のことはなかったのだろう。
 目の前で苦しんでいる相手チームの選手に即座に手を貸し、痛みを和らげる手伝いをしようという行為そのものに、僕はある種の感動を覚えた。激戦のさなか、負傷した相手選手にまで気を配れる2年生。こういう選手を育てているのがファイターズであり、彼もまた、3年前の夏、僕と一緒に勉強した仲間である。
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