石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(14)充実の時、うれしい時間
ファイターズの諸君にとって、今が一番充実している時ではないか。
世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
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