石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(12)勝敗を分けた総合力
コロナ禍で、開催さえ懸念された甲子園ボウル。日本大学と関西学院大学の決戦は、両者が存分に持ち味を発揮し、期待に違わぬ激戦になった。
第1シリーズ。相手がファターズ陣奥深くに蹴り込んだボールを受けたリターナー木下が走り始めるとすぐ、目の前を交差したRB三宅にリバース。ハンドオフを受けた三宅が快足を飛ばして一気に相手陣21ヤードまで攻め込む。このチャンスをQB奥野からWR梅津へのTDパスに結びつけ、K永田のキックも決まってあっという間に7-0。
観客は大喜びだったが、日頃、チームの練習を見る機会の多い僕にとっては、事前に準備してきた通りの展開であり、上ヶ原で積み重ねてきた練習が報われたとほっとする。
ところが悪い予想もよく当たる。前評判通り相手OLの圧力が強く、ランプレーが止まらない。ラン、ラン、ランと押し込まれ、あっという間に同点。次の相手攻撃も、要所にスクリーンパスを混ぜた攻撃に振り回されて逆に14-7と逆転された。
やっかいな相手だ、どうすれば止まるんだろう、と頭を抱えているのはスタンドのファン。だが、グラウンドの選手の士気は衰えない。RB三宅や前田の強力なランとQB奥野のピンポイントのパスで反撃し、仕上げは三宅のランでTD。永田のキックも決まって、あっという間に同点に追いつく。
こうなると守備陣も落ち着き、相手の強力な動きに対応し始める。守備が落ち着くと攻撃も安定してくる。三宅と前田のラン、奥野からWR糸川や鈴木へのパスが次々と決まる。それぞれ相手守備陣の手が届かないコースへピンポイントに投じられるパスであり、日頃からともに練習を積んで仲間だからこそ確保できるボールである。
前半終了間近には、第4ダウン、インチという状況でWR大村が相手ゴールに走り込みTD。21-14とリードして折り返す。
後半に入っても、ファイターズの意気は軒昂。攻撃がミスをすれば守備がカバーし、守備陣が踏ん張れば攻撃陣がそれに呼応する。そういう好循環の中から、今度は鶴留、三宅、前田とそれぞれ異なる特徴を持ったランナーが各自の特徴を生かした走りで陣地を進める。最後は三宅が3ヤードを走りきって28-14。
ようやく一息、と思った瞬間、落とし穴が待っていた。日大のエースランナーが一気に78ヤードを独走してTD。球場の雰囲気を一変させる。
やばい。なんとか雰囲気を変えてくれと祈るような気持ちで迎えたファイターズの攻撃シリーズ。そこで今度はRB三宅が独走のお返しという場面を演出する。しかし、その前に手痛い反則があり、せっかくの独走が取り消し。ヤバイ!の2乗である。
迎えた第3ダウン。観客は浮き足だったが、選手は慌てない。奥野が普段通りに鈴木へピンポイントの長いパスを通して相手陣37ヤード。しかし、次のシリーズ。相手にQBサックを食らって第3ダウン、ダウン更新まで18ヤードという厳しい状況に追い込まれた。それでも奥野が鈴木へのパスをお約束のように通し、仕上げは奥野から糸川への24ヤードTDパス。どれもこれもピンポイントの難しいパスだったが、練習時から常に呼吸を合わせている鈴木と糸川が確実にキャッチし、7点を追加して相手に傾きかけていた流れを取り戻した。
終わってみれば、42-24。守備の1、2列はスピードで相手の強力なラインに対抗し、攻撃陣は互いに協力し合って相手の突入を食い止める。下級生でそろえたDB陣も、必死に相手ランナーを追い、パスに食らいつく。相手の動きと傾向を分析したベンチが的確な指示を出し、それに呼応した守備陣が相手のダウン更新を許さない。
そうなれば、攻撃陣も準備してきたとっておきのプレーを確信を持ってコールできる。それが成功するたびに、相手は疑心暗鬼となり、ファイターズの動きに過剰に反応してしまう。
そうした積み重ねと、ファイターズ攻撃陣の複雑な動きが相手守備陣を惑わす。その間隙を突いて、奥野がギリギリのパスを投じ、レシーバーが練習通りにキャッチする。この循環が始まれば、ファイターズのペース。後半の得点差は、実力の差というよりは、ベンチと分析班を含めた総合力の差が結果に現れたと考えてもいいのではないか。
関西大会で攻守ともに強力な陣容を整えた立命館に勝ち、甲子園ではこれまた強力なラインと豊富なタレントをそろえた日本大学に勝利する。それは、こうした準備と総合力において、多少なりともファイターズが上回っていた結果と言ってもよいだろう。
試合はグラウンドに出ている選手だけで戦うモノにあらず。監督やコーチはもちろん、ビデオによる相手チームの分析から、当日の彼我の選手の動きのチェックまで、すべての担当者の冷静で、地味な努力があって初めてグラウンドの選手たちが花開く。
試合後、大村監督やオフェンス担当の香山コーチから彼我の力関係を中心にした冷静な分析を聞きながら、なるほど、なるほどとうなずき、アメフットはどこまで行っても準備と総合力の勝負であると実感した。
第1シリーズ。相手がファターズ陣奥深くに蹴り込んだボールを受けたリターナー木下が走り始めるとすぐ、目の前を交差したRB三宅にリバース。ハンドオフを受けた三宅が快足を飛ばして一気に相手陣21ヤードまで攻め込む。このチャンスをQB奥野からWR梅津へのTDパスに結びつけ、K永田のキックも決まってあっという間に7-0。
観客は大喜びだったが、日頃、チームの練習を見る機会の多い僕にとっては、事前に準備してきた通りの展開であり、上ヶ原で積み重ねてきた練習が報われたとほっとする。
ところが悪い予想もよく当たる。前評判通り相手OLの圧力が強く、ランプレーが止まらない。ラン、ラン、ランと押し込まれ、あっという間に同点。次の相手攻撃も、要所にスクリーンパスを混ぜた攻撃に振り回されて逆に14-7と逆転された。
やっかいな相手だ、どうすれば止まるんだろう、と頭を抱えているのはスタンドのファン。だが、グラウンドの選手の士気は衰えない。RB三宅や前田の強力なランとQB奥野のピンポイントのパスで反撃し、仕上げは三宅のランでTD。永田のキックも決まって、あっという間に同点に追いつく。
こうなると守備陣も落ち着き、相手の強力な動きに対応し始める。守備が落ち着くと攻撃も安定してくる。三宅と前田のラン、奥野からWR糸川や鈴木へのパスが次々と決まる。それぞれ相手守備陣の手が届かないコースへピンポイントに投じられるパスであり、日頃からともに練習を積んで仲間だからこそ確保できるボールである。
前半終了間近には、第4ダウン、インチという状況でWR大村が相手ゴールに走り込みTD。21-14とリードして折り返す。
後半に入っても、ファイターズの意気は軒昂。攻撃がミスをすれば守備がカバーし、守備陣が踏ん張れば攻撃陣がそれに呼応する。そういう好循環の中から、今度は鶴留、三宅、前田とそれぞれ異なる特徴を持ったランナーが各自の特徴を生かした走りで陣地を進める。最後は三宅が3ヤードを走りきって28-14。
ようやく一息、と思った瞬間、落とし穴が待っていた。日大のエースランナーが一気に78ヤードを独走してTD。球場の雰囲気を一変させる。
やばい。なんとか雰囲気を変えてくれと祈るような気持ちで迎えたファイターズの攻撃シリーズ。そこで今度はRB三宅が独走のお返しという場面を演出する。しかし、その前に手痛い反則があり、せっかくの独走が取り消し。ヤバイ!の2乗である。
迎えた第3ダウン。観客は浮き足だったが、選手は慌てない。奥野が普段通りに鈴木へピンポイントの長いパスを通して相手陣37ヤード。しかし、次のシリーズ。相手にQBサックを食らって第3ダウン、ダウン更新まで18ヤードという厳しい状況に追い込まれた。それでも奥野が鈴木へのパスをお約束のように通し、仕上げは奥野から糸川への24ヤードTDパス。どれもこれもピンポイントの難しいパスだったが、練習時から常に呼吸を合わせている鈴木と糸川が確実にキャッチし、7点を追加して相手に傾きかけていた流れを取り戻した。
終わってみれば、42-24。守備の1、2列はスピードで相手の強力なラインに対抗し、攻撃陣は互いに協力し合って相手の突入を食い止める。下級生でそろえたDB陣も、必死に相手ランナーを追い、パスに食らいつく。相手の動きと傾向を分析したベンチが的確な指示を出し、それに呼応した守備陣が相手のダウン更新を許さない。
そうなれば、攻撃陣も準備してきたとっておきのプレーを確信を持ってコールできる。それが成功するたびに、相手は疑心暗鬼となり、ファイターズの動きに過剰に反応してしまう。
そうした積み重ねと、ファイターズ攻撃陣の複雑な動きが相手守備陣を惑わす。その間隙を突いて、奥野がギリギリのパスを投じ、レシーバーが練習通りにキャッチする。この循環が始まれば、ファイターズのペース。後半の得点差は、実力の差というよりは、ベンチと分析班を含めた総合力の差が結果に現れたと考えてもいいのではないか。
関西大会で攻守ともに強力な陣容を整えた立命館に勝ち、甲子園ではこれまた強力なラインと豊富なタレントをそろえた日本大学に勝利する。それは、こうした準備と総合力において、多少なりともファイターズが上回っていた結果と言ってもよいだろう。
試合はグラウンドに出ている選手だけで戦うモノにあらず。監督やコーチはもちろん、ビデオによる相手チームの分析から、当日の彼我の選手の動きのチェックまで、すべての担当者の冷静で、地味な努力があって初めてグラウンドの選手たちが花開く。
試合後、大村監督やオフェンス担当の香山コーチから彼我の力関係を中心にした冷静な分析を聞きながら、なるほど、なるほどとうなずき、アメフットはどこまで行っても準備と総合力の勝負であると実感した。
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