石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(5)灯りの見える勝利
前例のないシーズンが前例のない形で始まった。2020年度の関西リーグ。今季は、一部の8チームが二つのブロックに分かれてトーナメントで戦い、勝ち抜いた2校で優勝を争う仕組みになった。
逆に言えば、初戦で負ければそこでシーズンが終わる。18日朝のどこかの新聞に「京大、2時間あまりでシーズン終了」との見出しが出ていたが、それが衝撃的だった。リーグ戦ならば、たとえ初戦で敗れても、くじけずに戦い続ければ逆転優勝の目が残る。けれどもトーナメントは一発勝負。どんなに素晴らしい試合をしても、負ければそれでシーズン終了。残酷なことよ、と思いながら王子スタジアムに向かった。
この日の僕の役割は、コロナ禍で試合会場から閉め出されたファンや選手の保護者の方々に、このコラムを通じて試合のポイントをお伝えすること。もちろんRTVの実況中継やサンテレビの録画放送があるが、そうした文明の利器が見落としたようなところにも目を配ってファイターズファンにお届けすることである。
初戦の相手は同志社大学。相手のキック、ファイターズのレシーブで試合が始まる。リターナーは4年生RB三宅。昨季もライスボウルであの富士通を相手に独走TDを決めたスピードランナーである。相手のキックを自陣10ヤード付近で確保すると、そのまま右のサイドライン付近を駆け上がる。相手ディフェンスも必死に止めようとするが、それを軽快なステップで交わし、そのたびにスピードを上げてそのままタッチダウン。K永田のトライフォーポイントも決まって7-0。わずか10秒ほどで主導権を握る。
しかし、驚くのはこれからだ。相手の最初の攻撃シリーズを完封して、再び自陣30ヤード付近からファイターズの攻撃。今度はQB奥野からTE遠藤、WR糸川への短いパスが続け様に決まり、続けて三宅のラン、糸川へのパスを決めてあっという間に相手陣29ヤード。そこから今度はRB前田が中央を突破してTD。スピードだけではなく、パワーで相手を圧倒していく豪快な走りだった。
しかし、驚くのはまだ早い。相手の攻撃をこれまた完封してファイターズ3度目の攻撃シリーズがまたまた鮮やかに展開する。今度は奥野からWR鈴木に27ヤードのパス、RB前田のラン、再び鈴木へのパス、そして仕上げはRB前田が中央2ヤードを飛び込んでTD。相手が警戒しているにもかかわらず、鈴木と前田を交互に使い、それぞれのプレーをすべて成功させてTDに結びつけるというのは尋常ではない。
思い通りの試合展開で、選手たちの気持ちもほぐれてきたのだろう。続く第4シリーズの主役は3人目のRB斎藤。相手守備が奥野からのパスを警戒している裏をかいて、一気に34ヤードを走り、ゴール前2ヤード。これを三宅のランでTDに結びつけ、なんと第1Qだけで27-0とリードを広げる。
第2Qに入っても勢いが止まらない。ファイターズ5回目の攻撃シリーズはRB三宅、前田、鶴留を交互に走らせ、合間にWR梅津へのパスを挟んで確実に陣地を進める。仕上げは三宅のラン。永田のキックも決まって34ー0。ここまで5回の攻撃シリーズを攻撃陣はすべてTDに結びつけ、守備陣は相手を完封する見事な展開である。
その内容が素晴らしい。主将の鶴留を加えたRB4人がそれぞれ持ち味を出して大きなゲインを重ねれば、レシーバーも確実にボールをキャッチして陣地を進める。センターの高木とタックルの牧野以外は試合経験の少ないOLも、しっかりボールキャリアを守り、走路を開く。
奥野はこの日、第2Q早々に5本目のTDを取ったところで交代したが、その間、9回パスを投げて失敗したのは1回だけ。ランが出るからパスが通るのか。パスが通るから相手守備陣は、ランプレーへの警戒がおろそかになるのか。さすがは2年生の時からエースQBとしてチームを引っ張ってきた選手である。毎年のように厳しい試合を戦う中で積み重ねてきた経験は伊達ではない。
奥野と言えば、試合の前々日、チーム練習が一段落した時に、僕は珍しい場面に遭遇した。ワイドレシーバーのリーダー、鈴木がレシーバー全員に集合をかけ、そこで奥野が真剣な表情で檄を飛ばしていたのである。僕は、少し離れた場所にいたので、彼の言葉は聞き取れなかったが、今度の試合に臨むにあたって、レシーバー陣に気合いを入れていたことは間違いない。
昨年まではプレーで引っ張っていた彼が、今年は言葉でも引っ張っている姿に、僕は彼の最後のシーズンに臨む熱い気持ちを見た気がした。
追伸
鮮やかな攻撃陣の先制パンチに目を奪われて、守備陣や途中から出場したメンバーの活躍ぶりに触れることができなかった。申し訳ない。次回には必ず守備陣や、攻撃を支えたラインのことも紹介します。しばらくお待ちください。
逆に言えば、初戦で負ければそこでシーズンが終わる。18日朝のどこかの新聞に「京大、2時間あまりでシーズン終了」との見出しが出ていたが、それが衝撃的だった。リーグ戦ならば、たとえ初戦で敗れても、くじけずに戦い続ければ逆転優勝の目が残る。けれどもトーナメントは一発勝負。どんなに素晴らしい試合をしても、負ければそれでシーズン終了。残酷なことよ、と思いながら王子スタジアムに向かった。
この日の僕の役割は、コロナ禍で試合会場から閉め出されたファンや選手の保護者の方々に、このコラムを通じて試合のポイントをお伝えすること。もちろんRTVの実況中継やサンテレビの録画放送があるが、そうした文明の利器が見落としたようなところにも目を配ってファイターズファンにお届けすることである。
初戦の相手は同志社大学。相手のキック、ファイターズのレシーブで試合が始まる。リターナーは4年生RB三宅。昨季もライスボウルであの富士通を相手に独走TDを決めたスピードランナーである。相手のキックを自陣10ヤード付近で確保すると、そのまま右のサイドライン付近を駆け上がる。相手ディフェンスも必死に止めようとするが、それを軽快なステップで交わし、そのたびにスピードを上げてそのままタッチダウン。K永田のトライフォーポイントも決まって7-0。わずか10秒ほどで主導権を握る。
しかし、驚くのはこれからだ。相手の最初の攻撃シリーズを完封して、再び自陣30ヤード付近からファイターズの攻撃。今度はQB奥野からTE遠藤、WR糸川への短いパスが続け様に決まり、続けて三宅のラン、糸川へのパスを決めてあっという間に相手陣29ヤード。そこから今度はRB前田が中央を突破してTD。スピードだけではなく、パワーで相手を圧倒していく豪快な走りだった。
しかし、驚くのはまだ早い。相手の攻撃をこれまた完封してファイターズ3度目の攻撃シリーズがまたまた鮮やかに展開する。今度は奥野からWR鈴木に27ヤードのパス、RB前田のラン、再び鈴木へのパス、そして仕上げはRB前田が中央2ヤードを飛び込んでTD。相手が警戒しているにもかかわらず、鈴木と前田を交互に使い、それぞれのプレーをすべて成功させてTDに結びつけるというのは尋常ではない。
思い通りの試合展開で、選手たちの気持ちもほぐれてきたのだろう。続く第4シリーズの主役は3人目のRB斎藤。相手守備が奥野からのパスを警戒している裏をかいて、一気に34ヤードを走り、ゴール前2ヤード。これを三宅のランでTDに結びつけ、なんと第1Qだけで27-0とリードを広げる。
第2Qに入っても勢いが止まらない。ファイターズ5回目の攻撃シリーズはRB三宅、前田、鶴留を交互に走らせ、合間にWR梅津へのパスを挟んで確実に陣地を進める。仕上げは三宅のラン。永田のキックも決まって34ー0。ここまで5回の攻撃シリーズを攻撃陣はすべてTDに結びつけ、守備陣は相手を完封する見事な展開である。
その内容が素晴らしい。主将の鶴留を加えたRB4人がそれぞれ持ち味を出して大きなゲインを重ねれば、レシーバーも確実にボールをキャッチして陣地を進める。センターの高木とタックルの牧野以外は試合経験の少ないOLも、しっかりボールキャリアを守り、走路を開く。
奥野はこの日、第2Q早々に5本目のTDを取ったところで交代したが、その間、9回パスを投げて失敗したのは1回だけ。ランが出るからパスが通るのか。パスが通るから相手守備陣は、ランプレーへの警戒がおろそかになるのか。さすがは2年生の時からエースQBとしてチームを引っ張ってきた選手である。毎年のように厳しい試合を戦う中で積み重ねてきた経験は伊達ではない。
奥野と言えば、試合の前々日、チーム練習が一段落した時に、僕は珍しい場面に遭遇した。ワイドレシーバーのリーダー、鈴木がレシーバー全員に集合をかけ、そこで奥野が真剣な表情で檄を飛ばしていたのである。僕は、少し離れた場所にいたので、彼の言葉は聞き取れなかったが、今度の試合に臨むにあたって、レシーバー陣に気合いを入れていたことは間違いない。
昨年まではプレーで引っ張っていた彼が、今年は言葉でも引っ張っている姿に、僕は彼の最後のシーズンに臨む熱い気持ちを見た気がした。
追伸
鮮やかな攻撃陣の先制パンチに目を奪われて、守備陣や途中から出場したメンバーの活躍ぶりに触れることができなかった。申し訳ない。次回には必ず守備陣や、攻撃を支えたラインのことも紹介します。しばらくお待ちください。
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