石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(20)甲南戦の収穫
試合が終わると、決まって鳥内監督の周囲に記者団が集まる。一般紙はもちろん、スポーツ紙や専門誌、はては関学スポーツの学生記者までが集まって、気のきいたコメントを求めようと質問する。
それを横合いから聞いているのが面白い。僕もその昔、兵庫県警や大阪府警を担当していたころは、事件のたびに現場に出掛け、捜査の幹部を取り囲んで似たような取材をしてきたから、彼らの取材方法や、質問の仕方、相手の反応に対するリアクションなど、いちいち思い当たることが多い。昔と違うのは、女性記者が増えたことぐらいだ。
甲南戦が終わった後、記者団が監督の取材をするのを、少し離れた所から聞いていた。質問はよく聞き取れないが、監督の答えはよく聞こえる。
「しっかり点がとれたようですが?」
「今日の試合で、何点とったか、取られたとか、そんなことは関係ないねん」
「問題は、今日の内容で立命に通用するかどうかや。社会人に勝って日本1、という目標を立ててるチームが、こんな内容の試合でええのんか、いうことや」
「今日の試合の収穫は?」
「雨の中でパスが通らんということが分かったことや」
「でも、今日は試合開始が遅れるなど、条件が悪かったでしょう?」
「去年の三原は、雨の中でも(パスを)通しとった。今年は、まだまだ練習が足らん、ということや。それが分かったことが、今日の収穫ですわ」
こういうナマの発言は、そのままでは新聞に掲載されない。うまく化粧を施して、そのエッセンスが紙面に載る。というより、せっかく取材しても、新聞には試合結果だけが掲載され、監督の談話も分析も、掲載されないことの方が多い。それでも記者は取材し、監督はインタビューに答えなければならない。仕事とはいえ、なかなか難儀なことである。
もちろん、懸命に質問し、それに答えが返ってきたからといって、それで本当のことが取材できているかどうかは定かでない。それより、スタンドから一生懸命試合を見ていた方が、事態がよく分かることがある。
ということで、雨中の戦いとなった甲南戦の報告である。
当日は、試合開始の30分ほど前から激しい雷雨。空は真っ黒である。落雷の危険があるから試合はできない。「雷鳴あるいは稲妻が最終確認されてから30分後に安全確認をした上で、試合を開始します」というアナウンスが、再三、流される。先日、高校のサッカーの試合で、落雷のために障害を負った高校生が、学校と主催者を相手取った訴訟で勝訴したばかりとあって、主催者は選手の安全管理を最優先に考える。
今日はこのまま中止になるかな、とあきらめかけていたが、ようやく1時間15分遅れでキックオフ。しかし、人工芝のグラウンドはあちこちに水たまりができている。ゴムのボールを使わなければならないし、空も薄暗い。選手にとっては最悪の状態で試合が始まった。
案の定、QB加納のパスは、思い通りに通らない。ようやく第2シリーズ。RB平田の30ヤード近いランでゴール前に迫り、RB河原が残り7ヤードを駆け抜けて先制。CB頼本のインターセプトでつかんだ次の攻撃シリーズはパントに追いやられたが、WR松原の好リターンで始まった続くシリーズでは、平田、稲毛の好走と加納のスクランブルで残り21ヤード。ここで河原が右オープンを独走してTD。前半を14-3で折り返す。
後半もランニングバック陣が鮮やかなランの共演。第3Q開始早々に稲毛が中央付近から49ヤードの独走TDを決めれば、次のシリーズでは4年生RB浅谷が7ヤードを走りきってTD。2年、3年と、2年続けてけがに泣いた副将RB石田も、走るたびに相手ディフェンス陣を5ヤードは引きずって走る「豪走」で完全復活を見せつける。
第4Qには、控えのQB加藤がWR正林へ、同じく浅海がWR勝本へとそれぞれ長いTDパスを決める。1年生キッカー大西のキックもことごとく決まって、終わってみれば45-3。得点だけを見れば、堂々たる勝利だった。
けれども、鳥内監督のいうように「社会人に勝って日本1」という目標を考えると、この日の内容で満足するわけにはいかない。立命の化け物のようなディフェンス、その前に当たる京大の執拗なディフェンスを考えると、この日のようなラン一辺倒のオフェンスでは、なかなか得点を重ねることは難しいだろう。試合経験の浅いメンバーで構成するオフェンスラインが持ちこたえてくれるかどうかも、予断を許さない。
すべては、これからの練習にかかっている。強敵を想定して、どれだけ密度の濃い練習ができるのか、試合で味わった苦い経験をどう自身の向上につなげていくのか。そう考えれば「収穫」はいっぱいあった。時ならぬ雷雨がもたらせてくれたこの試練を、今後に生かしてほしい。朝鍛夕錬あるのみである。
それを横合いから聞いているのが面白い。僕もその昔、兵庫県警や大阪府警を担当していたころは、事件のたびに現場に出掛け、捜査の幹部を取り囲んで似たような取材をしてきたから、彼らの取材方法や、質問の仕方、相手の反応に対するリアクションなど、いちいち思い当たることが多い。昔と違うのは、女性記者が増えたことぐらいだ。
甲南戦が終わった後、記者団が監督の取材をするのを、少し離れた所から聞いていた。質問はよく聞き取れないが、監督の答えはよく聞こえる。
「しっかり点がとれたようですが?」
「今日の試合で、何点とったか、取られたとか、そんなことは関係ないねん」
「問題は、今日の内容で立命に通用するかどうかや。社会人に勝って日本1、という目標を立ててるチームが、こんな内容の試合でええのんか、いうことや」
「今日の試合の収穫は?」
「雨の中でパスが通らんということが分かったことや」
「でも、今日は試合開始が遅れるなど、条件が悪かったでしょう?」
「去年の三原は、雨の中でも(パスを)通しとった。今年は、まだまだ練習が足らん、ということや。それが分かったことが、今日の収穫ですわ」
こういうナマの発言は、そのままでは新聞に掲載されない。うまく化粧を施して、そのエッセンスが紙面に載る。というより、せっかく取材しても、新聞には試合結果だけが掲載され、監督の談話も分析も、掲載されないことの方が多い。それでも記者は取材し、監督はインタビューに答えなければならない。仕事とはいえ、なかなか難儀なことである。
もちろん、懸命に質問し、それに答えが返ってきたからといって、それで本当のことが取材できているかどうかは定かでない。それより、スタンドから一生懸命試合を見ていた方が、事態がよく分かることがある。
ということで、雨中の戦いとなった甲南戦の報告である。
当日は、試合開始の30分ほど前から激しい雷雨。空は真っ黒である。落雷の危険があるから試合はできない。「雷鳴あるいは稲妻が最終確認されてから30分後に安全確認をした上で、試合を開始します」というアナウンスが、再三、流される。先日、高校のサッカーの試合で、落雷のために障害を負った高校生が、学校と主催者を相手取った訴訟で勝訴したばかりとあって、主催者は選手の安全管理を最優先に考える。
今日はこのまま中止になるかな、とあきらめかけていたが、ようやく1時間15分遅れでキックオフ。しかし、人工芝のグラウンドはあちこちに水たまりができている。ゴムのボールを使わなければならないし、空も薄暗い。選手にとっては最悪の状態で試合が始まった。
案の定、QB加納のパスは、思い通りに通らない。ようやく第2シリーズ。RB平田の30ヤード近いランでゴール前に迫り、RB河原が残り7ヤードを駆け抜けて先制。CB頼本のインターセプトでつかんだ次の攻撃シリーズはパントに追いやられたが、WR松原の好リターンで始まった続くシリーズでは、平田、稲毛の好走と加納のスクランブルで残り21ヤード。ここで河原が右オープンを独走してTD。前半を14-3で折り返す。
後半もランニングバック陣が鮮やかなランの共演。第3Q開始早々に稲毛が中央付近から49ヤードの独走TDを決めれば、次のシリーズでは4年生RB浅谷が7ヤードを走りきってTD。2年、3年と、2年続けてけがに泣いた副将RB石田も、走るたびに相手ディフェンス陣を5ヤードは引きずって走る「豪走」で完全復活を見せつける。
第4Qには、控えのQB加藤がWR正林へ、同じく浅海がWR勝本へとそれぞれ長いTDパスを決める。1年生キッカー大西のキックもことごとく決まって、終わってみれば45-3。得点だけを見れば、堂々たる勝利だった。
けれども、鳥内監督のいうように「社会人に勝って日本1」という目標を考えると、この日の内容で満足するわけにはいかない。立命の化け物のようなディフェンス、その前に当たる京大の執拗なディフェンスを考えると、この日のようなラン一辺倒のオフェンスでは、なかなか得点を重ねることは難しいだろう。試合経験の浅いメンバーで構成するオフェンスラインが持ちこたえてくれるかどうかも、予断を許さない。
すべては、これからの練習にかかっている。強敵を想定して、どれだけ密度の濃い練習ができるのか、試合で味わった苦い経験をどう自身の向上につなげていくのか。そう考えれば「収穫」はいっぱいあった。時ならぬ雷雨がもたらせてくれたこの試練を、今後に生かしてほしい。朝鍛夕錬あるのみである。
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