石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(29)心に残る言葉
先週末の西南学院大学との試合は、仕事の都合で応援に行けなかった。今週末の神戸大戦も以前から約束していた仕事がらみの催しが和歌山県新宮市であり、どう工夫しても時間の調整がつかない。2週続けてファイターズの試合が観戦できないなんて、いまだかつてないことだ。試合だけではなく、今週は新聞社の仕事があって西宮の自宅にも帰れず、チームの練習を見ることもできない。
歯がゆいことだが、心は二つ、身は一つ。鳥ではないので、空を飛んで行き来することもできない。仕方なく紀州・田辺の仮住まいで以前に自分が書いたこのコラムの集刷版やファイターズの卒業生が書いた文集を繰りながら、この10年ほどの4年生がこの時期、どんな思いで練習に取り組み、試合に臨んでいたかに思いを馳せ、心に残る彼らの言葉をどう現役の諸君に伝えようかと苦心している。
例えば、2007年の11月には作家、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にある「苦しみは選択事情」という言葉を取り上げている。
村上さんはその言葉について次のように説明している。「例えば、マラソンランナーが走っているとき、ああ、きつい、もう駄目だと思ったとして、きついというのは避けようのない事実だが、もう駄目かどうかは本人の裁量に委ねられている。つまり、痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル。つまり本人の選択次第である」と。
この言葉は今季、毎週、ハードな試合に臨んでいるファイターズの諸君にこそふさわしい言葉であろう。体はああ、きつい、もう駄目だ、と悲鳴を上げたとしても、それを駄目だと思うか否かは本人の選択。いまはとことんきついけど、これが勝利への一里塚。この道を突き進んで初めて栄光への道が開けると腹をくくって突き進むしかないということだろう。
2011年、松岡主将がチームを率いたシーズンのこの時期には、朝日新聞社が発行したアエラムック『関西学院大学 by AERA』にこんな文章を書いている。「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵を絞り、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後一貫してアメフット界の頂点を争い続けてきたチームの矜持(きょうじ)である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」。
この言葉は、苦しい戦いの続く今季のチームについても、そのまま通用する。リーグの最終戦でライバルに苦杯を喫し、苦しい条件の中で再度のチャレンジを続けているチームにとって「いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきた」先輩たちの軌跡は、心強い味方のなるはずだ。
2016年、山岸主将が率いるチームが立命の強さを存分に見せつけられながら一歩も引かずに戦い、最後は26-17で制した戦いを「魂のフットボール」と表現。試合後に鳥内監督のインタビューにある「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」という言葉を紹介している。
「腹をくくってやり切る」「それを最後まで示す」という言葉。これこそ、いま目の前に迫った試合に求められることであろう。
学生界の頂点に上り詰めたチームだけではない。惜しくも甲子園に進めなかったチームにも、素晴らしい言葉を残して卒業していったメンバーがいる。例えば、2015年度に卒業した作道圭吾君は「卒業文集」に次のような言葉を残している。
「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども、後悔はない。もちろん君たちには勝つてほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくない。やり切ってほしい。そのためにも目の前に「しんどい道」と「そうでない道」があるとき、迷ってもいいから「しんどい道」を選んでほしい。」
まるで宮本武蔵のようなこの言葉を、最終決戦に向かう諸君に贈らせていただく。作道君には了解を得ていないが、彼もまた同じ気持ちであること、さらにいえば、過去に同じような苦しい場面に遭遇し、その難局をことごとく切り開いてきた数多くの先輩たちもまた、同じ言葉を胸の内で現役の諸君に贈っておられるであろうことを信じて疑わない。
歯がゆいことだが、心は二つ、身は一つ。鳥ではないので、空を飛んで行き来することもできない。仕方なく紀州・田辺の仮住まいで以前に自分が書いたこのコラムの集刷版やファイターズの卒業生が書いた文集を繰りながら、この10年ほどの4年生がこの時期、どんな思いで練習に取り組み、試合に臨んでいたかに思いを馳せ、心に残る彼らの言葉をどう現役の諸君に伝えようかと苦心している。
例えば、2007年の11月には作家、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にある「苦しみは選択事情」という言葉を取り上げている。
村上さんはその言葉について次のように説明している。「例えば、マラソンランナーが走っているとき、ああ、きつい、もう駄目だと思ったとして、きついというのは避けようのない事実だが、もう駄目かどうかは本人の裁量に委ねられている。つまり、痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル。つまり本人の選択次第である」と。
この言葉は今季、毎週、ハードな試合に臨んでいるファイターズの諸君にこそふさわしい言葉であろう。体はああ、きつい、もう駄目だ、と悲鳴を上げたとしても、それを駄目だと思うか否かは本人の選択。いまはとことんきついけど、これが勝利への一里塚。この道を突き進んで初めて栄光への道が開けると腹をくくって突き進むしかないということだろう。
2011年、松岡主将がチームを率いたシーズンのこの時期には、朝日新聞社が発行したアエラムック『関西学院大学 by AERA』にこんな文章を書いている。「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵を絞り、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後一貫してアメフット界の頂点を争い続けてきたチームの矜持(きょうじ)である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」。
この言葉は、苦しい戦いの続く今季のチームについても、そのまま通用する。リーグの最終戦でライバルに苦杯を喫し、苦しい条件の中で再度のチャレンジを続けているチームにとって「いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきた」先輩たちの軌跡は、心強い味方のなるはずだ。
2016年、山岸主将が率いるチームが立命の強さを存分に見せつけられながら一歩も引かずに戦い、最後は26-17で制した戦いを「魂のフットボール」と表現。試合後に鳥内監督のインタビューにある「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」という言葉を紹介している。
「腹をくくってやり切る」「それを最後まで示す」という言葉。これこそ、いま目の前に迫った試合に求められることであろう。
学生界の頂点に上り詰めたチームだけではない。惜しくも甲子園に進めなかったチームにも、素晴らしい言葉を残して卒業していったメンバーがいる。例えば、2015年度に卒業した作道圭吾君は「卒業文集」に次のような言葉を残している。
「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども、後悔はない。もちろん君たちには勝つてほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくない。やり切ってほしい。そのためにも目の前に「しんどい道」と「そうでない道」があるとき、迷ってもいいから「しんどい道」を選んでほしい。」
まるで宮本武蔵のようなこの言葉を、最終決戦に向かう諸君に贈らせていただく。作道君には了解を得ていないが、彼もまた同じ気持ちであること、さらにいえば、過去に同じような苦しい場面に遭遇し、その難局をことごとく切り開いてきた数多くの先輩たちもまた、同じ言葉を胸の内で現役の諸君に贈っておられるであろうことを信じて疑わない。
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