石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(12)「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」
しばらく前に『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(文春新書)という本を読んだ。朝日歌壇の選者なども務める歌人で、京都大学名誉教授でもある永田和宏さんが、勤務先の京都産業大学に4人の知識人を招いて講演してもらい、その講演内容と、その後の対談を記録した本である。難しい内容をやさしく語り合った刺激的な本であり、大いに触発された。
永田さんが対談相手に選んだのはノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん、将棋の羽生善治さん、映画監督の是枝裕和さん、そして京大総長の山極壽一さん。それぞれの専門分野で頂点を極めた人である。その4人が永田さんの招きで京産大を訪れ、学生の前で講演し、永田さんと対談した記録を採録しているのだから、面白くないはずがない。興味のある学生は本屋に走れ! 本を読まない学生は、今回、僕がその中でも印象に残ったフレーズを引用して説明するので、それをきっかけに何かをつかめ!
という次第で、今回はフットボールやファイターズの活動から少し距離を置き、学生とは何者か、学生時代の4年間がいかに大切かということを書いてみたい。文武両道を目指すファイアターズの諸君に、少しでも参考になるることがあれば幸いである。
例えば山中さんは、永田さんとの対談でこんなことをいっている。「20歳前後の5年間というのは、何にも代えられない宝物みたいな時間だ」「この時間に何をやったら正解というのは全然ないと思います。でも何もしないのだけはやめてほしい。どんなことでもいいから、あのときはこんなことに夢中になっていたな、というのがあったら、それがうまく行こうが行くまいが、絶対自分自身の成長につながっていきます」。いま、諸君がファイターズの活動に夢中になっていること、それがうまく行こうが行くまいが、それが絶対に諸君の成長につながっているということに直結する言葉ではないか。
続く羽生さんの言葉にも、印象的なフレーズがある。「人間は誰でもミスをする。ですから挑戦していくときに大切なのは、ミスをしないこと以上に、ミスを重ねて傷を深くしない、挽回できない状況にしないことだと思っています」「ところが、実際にはミスの後にミスを重ねてしまうことが多い。どうしてそうなってしまうかというと、動揺して冷静さや客観性、中立的な視点を失ってしまうこと」「もう一つ、ミスにミスを重ねてしまうのは、その時点からみる、という視点が欠けてしまうことがあると思います」といっている。
つまり「将棋でいえば、先の手を考えていくときには、過去から現在、未来に向かって一つの流れに乗っていることが大切」「ところがミスをすると、それまで積み重ねてきたプランや方針が、全て崩れた状態になり、それまでの方針は一切通用しない」「そのときにしなければならないのは、今、初めてその局面に出会ったのだとしたらという視点で、どう対応すればよいかを考えること。それがその時点から見る、ということです」と解説している。
これもまた勝負師ならではの味わい深い言葉であり、フットボールの試合にも即座に応用できる考え方だろう。ミスはしない方がいい。それでも起きてしまったら、それを受け入れた上で次なる最善手を考える。そのように心掛けることで気持ちも鎮まる、新たな対応策も生まれてくるに違いない。
羽生さんの言葉でもう一つ印象に残った部分がある。「将棋では、いい形、悪い形、美しい形、醜い形という識別がより深くなってくることが、イコール強くなる、上達したといえるのだと思います」。フットボールで言えば、美しい形でパスを通せる、いい形でタックルが出来るといったことを感覚的に理解できるようになったときに、その選手のステージが一つ上がったことになるという意味でもあろう。これもまた深い言葉である。
「万引き家族」で一気に世界の「コレエダ」となった映画監督の是枝裕和さんにも、胸に刻みたい言葉がある。「演出って、何を面白いと思うかということが常に問われている。どこにカメラを向けて、何を発見して、今起きているうちの何が頭の中に最初からあったものではなく、今ここで生まれたものなのか。それを発見し続けて行く動体視力とか反射神経というものを、自分の中ではなく自分と目の前で広がっている世界とのやりとりの中で見つけていく作業が、映像作家として一番おもしろいところで、一番難しいところで、いまだにはっきりとはつかめていないところです」。これもまた、DBやLB、あるいはRBやWR、何よりもQBの感覚に通じることではないか。
こんな風に、書いていたら切りがない。興味のある人は即座に本屋に走って下さい。
対談を仕切った永田さんも、対談に応じた4人の方も、どちらかといえばフットボールとは縁の遠い場所で仕事をし、業績を上げて来られた方々だが、その人たちの言葉の中にも、フットボール選手にも即座に適用できる言葉がこんなにたくさんある。
ファイターズの諸君にも、オフの日にはこうした本を読んで、新たな挑戦を始めるエネルギーにしてもらいたい。ファイターズが掲げる文武両道は、こうしたことの積み重ねから開けていくと、僕は確信している。
永田さんが対談相手に選んだのはノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん、将棋の羽生善治さん、映画監督の是枝裕和さん、そして京大総長の山極壽一さん。それぞれの専門分野で頂点を極めた人である。その4人が永田さんの招きで京産大を訪れ、学生の前で講演し、永田さんと対談した記録を採録しているのだから、面白くないはずがない。興味のある学生は本屋に走れ! 本を読まない学生は、今回、僕がその中でも印象に残ったフレーズを引用して説明するので、それをきっかけに何かをつかめ!
という次第で、今回はフットボールやファイターズの活動から少し距離を置き、学生とは何者か、学生時代の4年間がいかに大切かということを書いてみたい。文武両道を目指すファイアターズの諸君に、少しでも参考になるることがあれば幸いである。
例えば山中さんは、永田さんとの対談でこんなことをいっている。「20歳前後の5年間というのは、何にも代えられない宝物みたいな時間だ」「この時間に何をやったら正解というのは全然ないと思います。でも何もしないのだけはやめてほしい。どんなことでもいいから、あのときはこんなことに夢中になっていたな、というのがあったら、それがうまく行こうが行くまいが、絶対自分自身の成長につながっていきます」。いま、諸君がファイターズの活動に夢中になっていること、それがうまく行こうが行くまいが、それが絶対に諸君の成長につながっているということに直結する言葉ではないか。
続く羽生さんの言葉にも、印象的なフレーズがある。「人間は誰でもミスをする。ですから挑戦していくときに大切なのは、ミスをしないこと以上に、ミスを重ねて傷を深くしない、挽回できない状況にしないことだと思っています」「ところが、実際にはミスの後にミスを重ねてしまうことが多い。どうしてそうなってしまうかというと、動揺して冷静さや客観性、中立的な視点を失ってしまうこと」「もう一つ、ミスにミスを重ねてしまうのは、その時点からみる、という視点が欠けてしまうことがあると思います」といっている。
つまり「将棋でいえば、先の手を考えていくときには、過去から現在、未来に向かって一つの流れに乗っていることが大切」「ところがミスをすると、それまで積み重ねてきたプランや方針が、全て崩れた状態になり、それまでの方針は一切通用しない」「そのときにしなければならないのは、今、初めてその局面に出会ったのだとしたらという視点で、どう対応すればよいかを考えること。それがその時点から見る、ということです」と解説している。
これもまた勝負師ならではの味わい深い言葉であり、フットボールの試合にも即座に応用できる考え方だろう。ミスはしない方がいい。それでも起きてしまったら、それを受け入れた上で次なる最善手を考える。そのように心掛けることで気持ちも鎮まる、新たな対応策も生まれてくるに違いない。
羽生さんの言葉でもう一つ印象に残った部分がある。「将棋では、いい形、悪い形、美しい形、醜い形という識別がより深くなってくることが、イコール強くなる、上達したといえるのだと思います」。フットボールで言えば、美しい形でパスを通せる、いい形でタックルが出来るといったことを感覚的に理解できるようになったときに、その選手のステージが一つ上がったことになるという意味でもあろう。これもまた深い言葉である。
「万引き家族」で一気に世界の「コレエダ」となった映画監督の是枝裕和さんにも、胸に刻みたい言葉がある。「演出って、何を面白いと思うかということが常に問われている。どこにカメラを向けて、何を発見して、今起きているうちの何が頭の中に最初からあったものではなく、今ここで生まれたものなのか。それを発見し続けて行く動体視力とか反射神経というものを、自分の中ではなく自分と目の前で広がっている世界とのやりとりの中で見つけていく作業が、映像作家として一番おもしろいところで、一番難しいところで、いまだにはっきりとはつかめていないところです」。これもまた、DBやLB、あるいはRBやWR、何よりもQBの感覚に通じることではないか。
こんな風に、書いていたら切りがない。興味のある人は即座に本屋に走って下さい。
対談を仕切った永田さんも、対談に応じた4人の方も、どちらかといえばフットボールとは縁の遠い場所で仕事をし、業績を上げて来られた方々だが、その人たちの言葉の中にも、フットボール選手にも即座に適用できる言葉がこんなにたくさんある。
ファイターズの諸君にも、オフの日にはこうした本を読んで、新たな挑戦を始めるエネルギーにしてもらいたい。ファイターズが掲げる文武両道は、こうしたことの積み重ねから開けていくと、僕は確信している。
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