石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(8)うれしい予感

投稿日時:2019/05/28(火) 06:50rss

 その昔、竹内まりやが「うれしい予感は、いつでもあたるの」と歌っていた。
 どんな歌だったか、全く覚えていないが、このフレーズだけは、いいことがあるたびに浮かんでくる。26日、真夏のような王子スタジアムで関大と戦っている折りにも、何度も何度も僕の耳の奥では、あの甘ったるいまりやの歌声が聞こえていた。
 例えば立ち上がり。今季初めて先発した2年生QB山中がいとも簡単に1年生WR糸川にミドルパスを決めたとき。このプレーでダウンを更新した後、たたみかけるように次のプレーでも、WR阿部に長いパスを投じたとき。これは、運悪く阿部の足がもつれ、攻撃側の反則となって、ダウンは更新できなかったが、それでも臆さず、今度はWR鈴木に19ヤードのパスを通す。かと思えば、2度目の攻撃シリーズでは思い切りのよいスクランブルで21ヤードの前進。さらにRB三宅などのランでダウンを更新した後、相手ゴール前23ヤードからエースWR阿部に長いパスをヒット。一気に先制点を奪った。
 これが初めての先発、それもこの試合にQBとして出場することが決まってから4日ほどしか練習していないというのに、まったく試合の雰囲気に飲まれず、堂々とプレーを続けている。僕は先週の木、金、土の3日間、上ヶ原でチームの練習を見せていただいたが、そのときに、すらっとした長身のQBが中心になってパスを投げ、チーム練習に参加しているのを初めて見た。素人が見ても、投げ方に無理がないし、思い切りよく走ることもできる。その判断が的確だし、動きにも無駄がない。
 思わずコーチに「あの子いい動きをしてますね」と声を掛けると「いいですよ。今度は先発させます」との返事。それからは3日間、彼の姿ばかりを追い続けた。練習中、本人に話しかけるのは気が引けるので、休み時間にレシーバーの鈴木や糸川に話題を振ってみる。二人とも「受けやすいボールを投げてくれる」「初めてとは思えないほどやりやすい」と口を揃える。そのとき、関大戦ではきっと彼が活躍するに違いないという予感がした。そしてそれは当たった。
 あと二つ、3日間の練習を見ていて予感があった。一つは今度の試合では、阿部は警戒される、その分、糸川と鈴木の動きに注目しよう、この3人が役割を分担し、山中のパスで必ず見せ場を作ってくれるという予感である。それもぴたりと当たった。まずは第2シリーズ。糸川と鈴木にミドルパスを決め、仕上げ阿部君への先制TDパス。安藤君のキックも決まって予感通りに7-0とリード。
 次の攻撃シリーズも鈴木へのパスや三宅や前田のランでゴール前まで陣地を進めたが、反則などもあって、安藤のFGによる3点止まり。
 しかし、4度目の攻撃シリーズでは、センターライン付近から山中が投じた48ヤードのパスが糸川に通ってTD。投げる方も堂々としていたが、受ける方も相手ディフェンスを鮮やかに振り切り、ゴールポストの下で余裕を持ってキャッチする。これが今春入部したばかりの1年生かと驚くほどだったが、上ヶ原の練習で彼の動きを何度も見ていた僕は「予想通り。うれしい予感はいつでも当たる」と独り言を言っていた。
 もう一つの予感は、DBの北川の活躍。なぜかこの日も複数回、インターセプトを決めそうな予感があった。この前の慶応との試合中、彼がインターセプトできそうなボールをLB赤倉がいち早くカット。その瞬間、僕がインセプできたのに、と全身で悔しがっていた姿を見ていたからだ。試合後、思わず声を掛けて「次もチャンスはある、きっちり決めような」と声を掛けたが、そのときに、この集中力、この気持ちがある限り、きっと次の試合でも目を見張る活躍をするに違いないと、これは予感というより確信していた。
 案の定、第4Qの半ばから後半にかけて、立て続けに2本のインターセプト。ともに相手が8点を返し、必死に反撃している時間帯だっただけに値千金プレーだった。
 「うれしい予感は、いつでも当たる」といえば、もう一つ付け加えておきたい。K安藤の安定したキックのことである。週末の練習では「この子、昨シーズンより飛距離が伸びている」と思わされる場面が何度もあった。最初は風のせいか、とも思ったが、逆風でも苦にしない。「力が付いたんや」と思って、試合前から密かに彼の動きに注目していた。結果はキックもFGも完璧。この日の彼のプレーを見て「目的を持った練習は裏切らない」という言葉を実感した次第である。
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