石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(2)4年生の365日

投稿日時:2019/04/15(月) 08:16rss

 新しい年度が始まり、大学のキャンパスには初々しい新入生が満ちあふれている。昼休みともなれば、中央芝生は人でいっぱいだし、銀座通りも学生会館もラッシュアワーのターミナルのような混雑振りだ。
 大学生活に慣れ、春休みはバイトや旅行に忙しかった上級生も、今の時期は、新しく履修した授業の要領をつかむためにせっせと大学に顔を出しているし、4年生は2月の後半から就職活動やその情報収集に目の色を変えている。
 ファイターズのメンバーにとっても、それは逃れられない。練習や合宿の合間に時間を捻出してOBを訪問して情報を集め、エントリーシートの作成に頭を悩ませている。僕の元にも相談に来る4年生が少なくない。
 僕はファイターズの応援コラムを書いたり、ファイターズを志望する高校生に小論文を指導するだけではない。実は、朝日新聞の論説委員の頃から(会社の提携講座で)都合5年間、立命館宇治高校や立命館大学で小論文の書き方を教えてきた経験がある。朝日新聞を退職後は、関西学院大学の非常勤講師として今春まで、文章表現やマスコミ志望者のための文章講座を担当し、就職活動の相談に乗ってきた。
 そうした経験を多少ともチームの諸君に還元できたらということで、春先は毎年、エントリーシートの書き方や面接の心得などといったことについて、ささやかではあるが相談に乗っている。
 その中で感じることがある。ファイターズの4年生は多分、どのクラブの学生、どの学部、どの学年の学生と比較しても、より充実した365日を過ごしているであろうということだ。
 どういうことか。同じようにエントリーシートを書いても、新しく4年生になったばかりの部員と、4年目を留年し、5年目の春に就職活動に取り組む部員とでは、書いている文章の背景にある「覚悟」とか「事実」とかに明らかに差があるということだ。
 今年も10人以上の部員からエントリーシート作成の相談を受け、仕上げた文章を見せてもらったが、5年生の書いた文章は、出来不出来という以前に、そこに盛り込まれている「事実の強さ」が新4年生のそれに比べると、確実に奥が深いのである。
 それは新しく4年生となった部員のレベルが低いということではまったくない。そうではなく、この1年間、チームに責任を持って活動してきた人間と、これからの1年、チームのリーダーを引き受けようとする新4年生の置かれた状況の違いである。
 その差に、僕はファイターズの4年生が過ごす365日の重みを感じるのである。
 その重みとは何か。言葉ではなかなか表しにくいが、あえていえばチームを背負っていく覚悟、言葉だけではなく自らの行動で範を示すリーダーシップ、練習や試合に対する取り組み、そういったことのすべてが集積されて、初めて「ファイターズの4年生」が誕生するということだろう。
 その大きな荷物を背負って、どのように来年の1月3日までの長い道のりを歩くのか。長い坂を上っていくのか。
 その行く末は現段階では見通せないが、ひとつだけはっきりしていることがある。その荷物を背負うのが、新しいチームを率いる4年生一人一人であり、それを背負い切ってこそ「ファイターズを卒業しました」と胸を張って言えるのである。
 鳥内監督はつねづね「どんな男(人間)になんねん」と問い掛けられる。その言葉をこれから毎日、自分に問い続け、答えを出し続けることこそが「ファイターズの4年生」になることだと僕は思っている。4年生の365日にはそれだけの重みがある。
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