石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(31)「日本1」

投稿日時:2018/12/17(月) 10:54rss

 甲子園ボウルの激闘が終わり、インタビューや表彰式が終わった後の最後のハドルで、光藤主将が腹の底から絞り出すように声を張り上げた。「ニホン イチ」。しばらく間を置いて「オレらが日本1や」と続ける。その言葉の力強さに、苦しみの中でも決して折れることなく戦ってきた「チーム光藤」の万感の思いがこもっていた。
 2年振りに顔を合わせた早稲田は、前評判通りの強さだった。攻撃では高いパス能力を持つQBとたぐいまれなスピード、捕球力を持ち合わせた複数のレシーバーがおり、突破力を持ったRBも複数いる。主将を中心とした守備のラインも強力だ。全体的にやや前よりに位置したLBの動きも鋭い。
 こういうやっかいな相手に、どこから突破口を開くのか。とにかく立ち上がりの攻防が勝負だ。そう思いながらキックオフを待つ。 幸いなことにファイターズのレシーブから試合が始まる。自陣26ヤードから最初のシリーズ。さて、どう攻めるかと注目した第1プレーはQB奥野からWR阿部へのパス。それが見事に通ってダウンを更新。次はRB中村がするするっと抜け出して13ヤードのラン。わずか2プレーで相手陣に入る。次のパスは通らなかったが、今度はRB渡邊が右オープンを抜けて駆け上がり、一気にゴール前1ヤードまで攻め込む。ここできっちり中村が中央へのダイブを決める。K安藤のキックも、お約束のように決まって7-0。わずか6プレーで欲しかった先制点を奪い、チーム全体に落ち着きをもたらす。
 しかし、相手も強い。最初の攻撃シリーズからランとパスをバランスよく織り交ぜて一気に攻め込んで来る。途中、ファイターズはDL三笠が強烈なQBサックで相手を追い込んだが、相手はそれにひるまず、思い切りのよいパスを投げ込んで陣地を進め、これまたわずか8プレーで同点。
 懸念していた通り、やっかいな相手だ。難しい試合のなるぞ、と懸念していた矢先、DB畑中が絶妙のインターセプトを決める。地面すれすれの低いパスに、一瞬の迷いもなく飛び込み、ボールを確保する。
 この好機に、安藤がFGを決めて10-7。再ファイターズがリード。
 圧巻は2Qに入ってからの攻守の動き。まずは開始早々、安藤が2本目のFGを決めて13-7。この前後から守備のリズムがよくなり、DB荒川のパスカット、三笠の2本目のQBサックなどが飛び出す。極めつけは、その次のプレー。第4ダウンで蹴った相手パントをLB板敷がブロック、こぼれたボールをLB海崎が確保し、16ヤードをリターンして相手ゴール前1ヤードに迫る。
 その好機にQB光藤がするするとラインの穴をついてTD。勢いに乗ったファイターズは次の攻撃シリーズでもRB三宅が41ヤードの独走TDを決め、27-7とリード。そのまま前半終了。
 後半になってもファイターズの攻守のリズムは崩れない。最終的には相手に2本のTDを許したが、ファイターズもしっかりTDとFGで10点を追加し、37-20で試合終了。昨年、日大を相手に敗戦を喫した悔しさを晴らした。
 さて、勝因はどこにあるのだろう。結果はすべてグラウンドにあるという。
 その視点で見れば、まずは守備陣の健闘が挙げられる。リズムに乗れば、ランでもパスでも、一気にTDまで持ち込む能力のある選手を揃えた早稲田を相手に、彼らはその力を存分に発揮させないまま、試合終了まで耐え続けた。1列目の中央を支えた藤本、エンドから再三、スピードに乗ってQBに襲いかかり、二つのQBサックと、生涯初めてというインターセプトを記録した三笠。これぞ最前列を守る豪傑というプレーで、相手の選択肢を一気に狭めてしまった。
 2列目の中心を担った海崎、繁治の2年生コンビ。さらにはDLとの兼任で能力を開花させた二人の3年生、大竹と板敷の活躍も光った。3列目は4年生の横澤、西原、荒川、木村が適切な反応で相手のボールキャリアに食いつき、最後の砦を3年生の畑中が守った
 攻撃陣の動きも安定していた。先発したQB奥野はもちろん、途中から出場した光藤と西野がそれぞれの持ち味を発揮して攻撃のリズムをつくり上げた。松井、小田、阿部という傑出したメンバーが代表するレシーバー陣が的確なブロックと捕球でそれを支えた。OLもシーズン当初はバタバタしていたが、リーグ戦の後半から、見違えるような安定感をみせた。RB陣では大黒柱の山口がけがで欠場したが、その穴を同じ4年生の中村や傑出したスピードを持つ3年生の渡邊、2年生の三宅が埋め、痛手を感じさせなかった。
 キッカーの安藤、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡を中心としたキッキングチームの安定感も素晴らしかった。
 このように名前を挙げて行くと、今季のファイターズには、甲子園という舞台で輝いた星が数え切れないほどいることが分かる。傑出した能力を持った「豪傑」と呼ぶにふさわしいプレーヤーもいるし、彗星のように表れた新星もいる。グラウンドに立つそれぞれの選手がそれぞれの分野で活躍する場面を自らつかみ取り、あるいは仲間を輝かせた。そういう集団であるからこそ、やっかいな相手にも真っ向から立ち向かい、勝負を決することができたのだろう。
 それを証明したのがこの日、第3ダウンロングという場面で再三登用され、相手攻撃陣に果敢に切り込んでいったDL斎藤らの活躍であろう。
 これは今季の関西リーグを振り返ってもいえることだが、対戦相手はそれぞれに強力だった。守備のラインが傑出していた近大、闘志を前面に出して挑みかかってきた京大、ファイターズ守備陣を翻弄し、ほとんど勝利を手にしていた関大、例年通り攻守ともに強力なメンバーを揃えた立命。そしてこの日、その高い能力の片鱗を随所で見せた早稲田。
 こういう強豪を相手に、ファイターズがどうして勝ち、日本1になれたのか。僕自身、まだ十分に納得できる答は出せていないが、あえていえば、次のようなことではなかろうか。
 一つは自らグラウンドに活躍の場を求めた選手達の精進と努力。それを支えたマネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフの献身。それによって技量がアップし、試合ごとに活躍の場が広がって、選手自らが半歩、一歩と前進し続けたからではないか。
 二つ目は、そうした選手たちの力量を見極め、それぞれの力を生かす攻め方、守り方を決めていったベンチの采配やコーチ陣の能力の高さである。その要求を受け止め、自ら活躍の場を求めた選手たちのフットボール理解力の向上も勝利に大きく貢献したはずだ。
 さらにいえば歴代のチームが培ってきたチームのたたずまい、OBの方々の物心両面の支援も含めて、ファイターズはそれぞれの分野でほんの少しずつかもしれないが、ライバルたちを上回っていたのではないか。
 そのトータルがこの日、甲子園で戦う権利をもたらし、その勝者となる道を開いたのだろう。試合終了後のハドルで、光藤主将が「日本1」と雄叫びを上げ、しばらく間を置いて「俺たちが日本1や」と叫んだ言葉にはそれだけの重みがある。
この記事は外部ブログを参照しています。すべて見るには下のリンクをクリックしてください。

記事タイトル:(31)「日本1」

(ブログタイトル:石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」)

コメント

名前:
Eメールアドレス:
コメント:
ファイル
パスワード:

<< 2020年5月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

アーカイブ