石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(12)ファイターズの先見性

投稿日時:2018/07/28(土) 06:45rss

 関西学院大学が課外活動の理想を追う時、僕は常々「ファイターズの活動をスタンダードにすればどうか」と考えてきた。それぞれの考え方や伝統を基本に、日々、部の運営に知恵をしぼり、工夫を凝らしておられる各クラブに対して、あまりにも僭越な言い方なので、正面から主張したことはなかった(ときどきはそれに類することは書いてきた)が、今回、大学が体育会に所属する学生を対象に、学業とスポーツ活動の両立を図る制度を設けることを発表したのを機に一言、論じてみたい。
 大学の発表によると、この制度の目的は学業とスポーツ活動の両立が目的。具体的には卒業までに取得しなければならない124単位を確実に取得させるため、各学年で最低限取得しなければならない単位数の統一基準を設け、その取得状況によって、対外試合出場に「資格有り」「条件付きで資格有り」「資格なし」に分類する。資格なしと判定された部員は、練習試合を含む対外試合に半年間は出場できない。
 「出場資格なし」とされる単位数は1年終了時に20単位以下、2年終了時に41単位以下と規定。これは2年間留年すれば取得できるペースという。
 「条件付き出場資格有り」の場合は、論文の書き方などを学ぶ支援プログラムを受講することで」出場資格が復活する。
 来春、入学する学生から適用し、学生とは入学時に合意書を交わすという。
 これに似た仕組みは、すでにファイターズが「部内の約束事」として運用してきており、プレイヤーとしての能力が優れていても、過去には試合には出場できない選手が何人もいた。もちろん、部内で勉強会を設け、成績の優秀な学生が指導者となって単位取得の指導をしたりもしている。僕も過去に2年間、前期だけだが、毎週土曜日に3人の学生に個別指導を続けた経験もある。それとは別に、大学に入学が決まった前の高校生に2カ月ほど、読解力を付けるための個人指導をしたこともある。
 そうした体験を通じて、学業と部活動の成果は連動しているという実感を持っている。最初は、大学の試験にどのように対処したらいいか自信の持てない部員でも、何かのきっかけで単位の取得が進むと、大学生活に自信が付き、それが部活動への取り組みにも好影響を及ぼすのだ。
 例えば十数年前の例である。スポーツ推薦で入部した有望選手は当初、大学のフットボールが楽しくてならず、授業もそっちのけで部活動に集中していた。当然、前期試験では単位がほとんど取得できず、監督やコーチから「このままでは試合に出さへんぞ」と、厳しく注意された。それに発憤して、後期以降はまじめに授業にも取り組み、4年間で無事卒業。第一志望の有名企業に就職した。4年生の時には主将も務めてリーグ優勝を果たした。
 土曜日ごとの僕との勉強会に取り組んでくれた選手の一人も、成績が上がるに連れてチーム内での発言力が上がり、守備リーダーとして主将を補佐し、チームを牽引してくれた。当然、甲子園ボウルでも勝ち、大学日本一の栄誉をつかんだ。
 現在の4年生にも、単位取得が進むのと並行してプレーヤーとしても見違えるような力を発揮している選手がいる。
 課外活動が学業の妨げになるのではなく、大学の授業に真摯に取り組むことがプレーヤーとしての覚醒につながり、同時に日々の行動、振る舞いにも自信も付けさせてくれるのである。これが本当の意味での文武両道であろう。
 単位取得の取り組みだけではない。ファイターズは近年、練習時間の設定、長期休暇中の早朝練習、練習後の食事と睡眠時間の確保、トレーナーの協力による下宿生のための朝食会など、さまざまな取り組みを最新の知見をもとに取り入れている。試合に出場出来るのは男子だけだが、女子部員にも広い活動範囲が与えられている。
 シーズンに入ってからのチーム練習の時間も、驚くほど短い。それでいてサプリを摂る時間などは確実に確保している。初めて練習を見学した人はみな、これが日本1を目指すチームの練習かと驚かれる。
 そうしたチームマネジメントの在り方に関心を持たれる他競技の監督やコーチも最近は増えてきた。コーチの指示で、部員全員が第3フィールドに集まり、ファイターズの練習を見学されている場面を見たこともある。
 そのたびに、ファイターズの活動のいいところをそれぞれのクラブ活動に取り入れてほしい、ファイターズの活動を参考にしてチームを運営し、成果を挙げてほしいと思うことが多かった。
 今回、単位取得と対外試合出場を関連づけた新しい制度をスタートさせるのを機会に、できればファイターズの活動と先見性を関学体育会のスタンダードにしてもらいたいと願う、これが理由である。
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