石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(2)新生

投稿日時:2018/04/17(火) 19:34rss

 一気に咲いた桜が一気に散り、気がつけばもう甲山は新緑で盛り上がっている。僕が大学に通う際に利用している楠通りの並木道に連なる巨木たちも一斉に緑の新芽を繁らせている。クスノキ、コナラ、エノキ……。それぞれ微妙に色合いの異なる新芽を眺めながら歩いていると、知らぬ間に関学会館が見えてくる。そこからは半世紀以上も前の学生時代に通い慣れた桜並木が正門前に続いている。
 春は花、初夏は新緑。秋は紅葉。冬枯れの道を落ち葉を踏んで歩くのも心が弾む。たまには気分を変えて正門に直結する学園花通りも歩いてみるが、ぶらぶら歩くには楠通りが一番だ。いまの季節、通りに面した民家の軒先にハナミズキが美しく咲いているのを見るのも楽しい。
 けれども、それ以上に心弾むのは、第3フィールドに着き、ファイターズの練習を見る時だ。昨年、チームの主力として活躍した4年生の姿は見えないが、代わって一気にたくましくなった4年生や3年生が練習を引っ張り、声を掛け合って気合いを入れている。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが、学年が一つ上がるだけで、心構えがこんなに変わってくるのかと目を見張ることもしばしばだ。
 今春、入部したばかりのフレッシュマンも、グラウンドの隅っこに固まり、全員が揃って体幹トレーニングに励み、基礎体力を養っている。恵まれた体躯を持った選手が多いし、体は小さくても期待の持てる動きをしているメンバーが何人もいる。そこに厳しい目を注ぐ監督の姿があるのも、例年通りである。
 この時期、彼らが一通りのメニューを終えた後、いくつかの集団に分かれてグラウンドとその周囲の坂道を何度も全力で走る。それを見るのもこの時期ならではの楽しみだ。スポーツ推薦でファイターズの門を叩いたメンバー以外は知らない顔ばかりだが、先頭集団で突っ走っている顔は自ずから目に付く。過去の例を振り返ると、この時期、先頭を切って走っているメンバーは、プレーヤーとして必ず成長する。
 もちろん、先頭がいれば最後尾に置いて行かれる選手もいる。けれども彼らも歯を食いしばってがんばっている。その姿を見れば、思わず「がんばれよ」と声を掛けたくなる。
 練習の風景は例年通り。メニューは「走りモノ」をいくつか取り入れ、何かと工夫されているが、それでも集散や展開のスピードは例年と同じ。だが、この季節の練習を見ていると、なぜか「新生」という言葉が浮かんでくる。昨年まで先発メンバーとして、あるいは主な交代メンバーとして活躍していた4年生が卒業。その穴を埋めるはずのフレッシュな面々が横1線になって、競争を繰り広げているからだ。昨年からも試合に出ていたメンバーはもちろん、けがで戦列を離れていた選手や他競技から転出してきた選手らが冬を越してどこまで回復し、フットボールに馴染んできたか。昨シーズンはほとんど出場機会がなかった新2年生で、今季、頭角を現してくるのは誰か。そんなことを予想する楽しみもある。
 そんな新生ファイターズの一端を垣間見ることができたのが、先日の日曜日に第3フィールドで開かれた紅白戦だ。ほんの1時間少々の試合だったが、ほぼすべての選手が出場したこともあって見所は満載だった。
 会場でもらったメンバー表を手に、背番号と照らし合わせながら、目に付いた選手の顔を思い浮かべる。昨年はほとんどスカウトチームで活動していた2年生が4年生の主力選手を相手に一歩も引かないプレー繰り広げる。冬のトレーニング期間にしっかり鍛えたのだろう、他競技から転出してきた3年生が見違えるようにたくましいプレーを披露している。けがで1年間、戦列を離れていた3年生レシーバーは「今年は俺がチームを引っ張る」というオーラを漂わせたスーパーキャッチを見せる。
 もちろん、4年生も負けてはいない。声を張り上げてチームを鼓舞し、下級生の好プレーには惜しみなく拍手を贈る。文字通り横一線のスタートとなったオフェンスラインの下級生も踏ん張っている。ディフェンスラインやラインバッカーも、紅白戦とは思えないほどの激しい当たりを見舞う。
 週末、今季初の試合で誰が先発に名を連ねるのか予想できないほど、多くの選手が出場し、互いに見せ場をつくった。昨年は控えに甘んじていた選手の中から、今季は必ず出てくると僕が注目している選手はみな期待通りの動きを見せてくれた。こうした選手の名前はあえて書かないが、彼らはみな、次の試合、今週末の明治大との一戦では必ず活躍してくれるに違いない。
 それを確かめた上で、次回は遠慮なく名前を出そう。それまでは全員、横一線。新生ファイターズの新たな船出である。
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