石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(32)戦術のスポーツ

投稿日時:2017/12/14(木) 14:24rss

 「フットボールは、本当に戦術のスポーツですね」。西日本代表決定戦が終了したとき、場内のFM放送を担当されていた小野ディレクターの口から出たこの言葉が忘れられない。実力が拮抗(きっこう)したチームが対戦したとき、勝敗を決めるのはチームの戦術であり、それを遂行する選手の力であるという意味だろう。
 たしかに立命館の選手は能力が高かった。気迫も素晴らしかった。リーグ戦では、その能力と気迫にファイターズはこてんぱんにやられた。けれども、2週間後に相まみえたとき、ファイターズの諸君はみな、目を見張るような動きを見せ、攻守とも、思い通りにゲームを支配した。
 何が変わったのか。どこが劇的に向上したのか。選手個々の精神的な覚醒もあるだろうし、チームとしての取り組みの質が上がったこともあるだろう。その辺の事情については、急きょ練習台として参加してくれた社会人の選手やチーム関係者からも断片的に聞く機会があった。
 パナソニックで活躍している上沢一陽君は「選手の目の色が違った。練習でもぴーんと張り詰めた空気があった」というし、同僚の梶原誠人君は「チームが一丸となって向かって行く気迫を感じた」という。それぞれが練習台として先発メンバーと対峙した体験からの発言だ。手痛い敗戦を糧として、チームが内側から変わりつつあったのだろう。
 そういう裏付けをもとに、ベンチは立命戦に備えて春から準備してきたプレーを惜しみなく投入した。それぞれが適切な場面、相手からすれば意表を突く場面で仕掛けられたから、相手側は対応にもたつき、結果としてファイターズの圧勝になったのだろう。
 もちろん、RB山口の個人技、QB西野の思いきりのよいパス、WL陣やFB、TEの強烈なブロック。そして大村コーチがかねて「今年のディフェンスはいいですよ。学生界では一番じゃないですかね」といっていたDL、LB、DBの奮起も素晴らしかった。そういう個々の選手の動きの素晴らしさとチームとしての結束力、それが周到な戦術によって存分に発揮できたことが、先日の西日本代表決定戦の勝利に結びついたと僕は理解している。
 さて、今度の日曜日は甲子園ボウル。日大との決戦である。互いにライバルとして長い歴史を積み重ね、日本フットボール史に大きな足跡を残してきたチームとあって、スタンドから応援する僕らもひときわ力がこもる。
 つい先日の立命戦の記憶が鮮明だから、ついそのイメージに引きずられてしまうが、今度は全く別のチームが相手。毎年、春の定期戦で手合わせしているが、それは全く参考にならない。とりわけ相手のエースQBが1年生とあっては、その戦術も含めて未知のチームと言ってもよいだろう。
 思い起こすのは2013年、池永主将率いるチームが日大と戦い、23-9で勝った試合である。立ち上がり、相手の第1プレーを粉砕した池永主将の動きがまぶたによみがえる。それは、決戦の1週間ほど前から特別に練習してきたプレーであり、それが見事に決まった。あのプレーで、甲子園の芝生の上に立ったすべての部員が「よーし、これで行ける。思い切っていこう」と大いに勢いづいたに違いない。逆に、相手の1年生QBにはその残像が目に焼き付いたのだろう。2プレー目からは動きにキレがなくなり、パスも正確性を欠いた。
 当時とはメンバー全員が一新されている。しかしあの年、あの第一プレーに勝負をかけた池永主将の動き、それを支えた仲間たち。具体的にはLBの小野君や作道君、仮想、相手主将として練習台を務めたOLの友國君らの努力と献身。いわば「ファイターズ魂」は、いまも上ヶ原のグラウンドに継承されているはずだ。
 その魂があって初めて、戦術も花開く。それは、チームが一丸となって立ち向かった先日の立命戦の結果が証明している。リーグ戦では完敗した相手に、わずか2週間で、今度は完勝に持ち込んだ。そこに何があったのか。チームとして、どの部分が覚醒したのか。僕には詳細は分からない。けれども僕は知っている。「練習は裏切らない」ということを。
 立命戦からの2週間、懸命に取り組んだ練習の成果を、今度は甲子園で見せてくれ。健闘を期待する。
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