石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(31)「もう一丁」

投稿日時:2017/12/04(月) 14:46rss

 ファイターズの勝利を見届け、夜の高速道路を和歌山県田辺市の仮住まいに向かう。2週間前は、運転中も気持ちが落ち込んでいたが、今夜は180度違う。気分は爽快。心は弾む。試合後に顔を合わせ、よく頑張ったと声を掛け、手を握りあった選手の顔が次々に脳裏に浮かぶ。笑顔、笑顔、満面の笑み。誰もがやりきったという気持ちをにこやかな表情に表している。勝利とはこんなに素晴らしいことかと、心の底から思えてくる。
 田辺に到着し、駐車場に車を駐めた途端にショートメールが入った。開いてみると、こんな言葉が入っていた。「石井さんの渾身のコラムが言霊となって選手に乗り移ったような勝利でした……」
 送り主は、毎日新聞OBのTさん。その昔、僕が大阪の社会部で大阪府警を担当していた時、同じ捜査4課担当として競い合った友人である。ともに関学出身、ファイターズの大ファンということもあって、担当を離れ、互いに新聞社を退職してからも付き合いがあり、ときおり電話であれこれと話し込む。僕のコラムにも、折りに触れて感想を寄せてくれる。先日の立命戦で敗れた時も、悔しい思いを分かち合い、今度こそ、と励まし合ってきた仲である。
 「言霊となって選手に乗り移った」というのはあまりにも過分な表現だが、今日、12月3日のファイターズの諸君のプレーには、遠くスタンドから眺めているだけでも、鬼気迫るものがあった。これぞ、魂のフットボールと呼んでもよかろう。
 例えば前回、あれほど走られたランナーを徹底的にマークし、ことごとく止めた守備の面々。1列目中央の藤木、寺岡、両サイドを守る柴田、三笠、今井。2列目の松本や海崎、吉野。そしてDBの小椋、横澤、畑中、木村。だれもが激しいタックル、素早い動きで相手の思惑を封じ込めた。インターセプトを決めた畑中、松本だけでなく、相手のファンブルを誘発した横澤や今井の動きも素晴らしかった。
 もちろん、オフェンスが先手を取ったことも大きい。とりわけ目立ったのがRB山口。まずは立ち上がりの第2プレー。自陣13ヤードから一気に58ヤードを走って、相手守備陣を慌てさせた。絶好のチャンス。これをQB西野からWR前田泰一へのスクリーンパスでTDにつなげた。その間、わずか4プレー。前回の立命戦では相手に立ち上がりの3プレーで得点を許したが、今度は見事にお返しを決めた。
 次の相手攻撃を寺岡や横澤の素早い出足でパントに追いやると、今度も山口が見せる。自陣28ヤード付近から一気に64ヤードを走って相手ゴール前7ヤード。そこから連続して山口を走らせてTDに結び付け、K安藤のキックも決まって14-0。
 前回の試合では、ゴール前の残り1ヤードがとれずにTDを逃がしたOLと山口の意地が爆発したような場面だった。これだけではない。攻撃のラインと山口は、第2Q中盤にもゴール前1ヤードからのランプレーを一発で決めてTDを獲得しており、見事に2週間前のお返しをした。
 ファイターズは後半にも、西野が前田泰一へのパス、前田耕作へのピッチでそれぞれTDを獲得。守備陣も相手をFGによる3点に抑え、終わって見れば34-3の圧勝。
 この得点差、この試合内容を、試合前に予想したファンはどれほどいただろう。前回の双方の戦い方を記憶している人の大半が、もっともっと苦しい展開を予想されていたのではないか。
 打ち明ければ、僕もその一人である。1回目の勝利で、相手は勢い付いている。この1年、自分たちの続けて来たことが勝利という結果を呼び込んだことで、大いに自信も付けているはずだ。逆に、ファイターズの面々は「なんで、俺たちのプレーが通らんかったんや」「今度も相手のランとパスが止められないのではないか」と思い煩い、無心に練習に打ち込めなかったのではなかろうか。途中、名古屋まで出掛けてもう1試合、絶対に負けてはならない試合を戦わなければならないというのも負担になったに違いない。
 けれども、ふたを開ければ見事なリベンジ。攻守ともに想像を絶する力を発揮した。試合後、インタビューに応じた鳥内監督の口から「選手、コーチが自分の予想を超える取り組みをしてくれた」という言葉が出たが、まさにその通りであろう。
 コーチの取り組みについては、作戦面に関係することも多いので、ここでは触れないが、選手の取り組みについてなら、この間、何度か練習を見せてもらった僕にも思い当たることはいくつかある。
 一番は、選手の目の色が変わったことである。練習の時間は普段通り、メニューもそんなに変わらない。変わっているのは選手の外見と表情である。上級生になればなるほど、思い詰めたような顔をしている。4年生は前から丸坊主にしているが、3年生の中にも頭をつるつるに丸めた選手が相次いだ。光藤や尾崎は以前から丸坊主だったが、今週に入ってからは松井、西野、光岡、横澤ら試合に先発している面々がそれに続いた。
 言葉数も少なくなり、話しかけても話が弾まない。それぞれが胸の内に不安と焦燥を抱え込んでいるからだろう。
 そんな彼らに、僕は何度も「語り継がれる伝説の学年になるチャンスだ。こてんぱんにやられた相手を、今度はこてんぱんに倒せ。そして伝説になれ」と声を掛けようとした。しかし、当の選手達が一番悔しい思いをしているのに、外野からあれこれ言っても意味はない。一番悔しい思いをしている選手諸君が自ら立ち上がり、まなじりを決して戦うしか道は開けない。そう思って、あえて中途半端な激励は控えた。
 それでも、何かのメッセージは届けたい。そう思って書いたのが、前回のコラムである。それが「言霊」となって選手諸君に届いたというのなら、こんなにうれしいことはない。
 大学、社会人を問わず、大半のチームはすでにシーズンを終えた。大学4年生の大半は引退している。しかし、ファイターズの諸君には、まだまだシーズンが続く。同じ釜の飯を食った仲間と、同じ目的を持った練習が続けられる。その幸せを胸に刻んで、日々の練習に取り組み、さらなる成長につなげてもらいたい。「もう一丁、やったろかい!」
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