石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(20)失敗は天からの贈り物
関西リーグ第2戦は、今季から?部リーグに復帰した甲南大との対戦。相手にはどんなメンバーがいて、どんな戦い方をするのか、手持ちのデータは少ない。当然、戦術以前に個々の選手のファンダメンタルが問われる試合になりそうだ。ファイターズの選手が持っている基礎的な力が未知の相手にどこまで通用するのか。とりわけ試合経験の少ないメンバーの動向に注目して観戦した。
結果は「うれしい便りと、悔しい便りをお届けします」。
ファイターズのレシーブで試合開始。RB野々垣が27ヤードをリターンし、自陣29ヤードから攻撃が始まる。まずはQB伊豆からWR前田泰へのパスで22ヤード前進。相手陣に入ると野々垣とRB橋本のラン、WR松井へのパスで敵陣35ヤード。そこで再び前田泰への短いパスがヒットしてゴール前18ヤード。野々垣の切れのよいランでゴール前7ヤードに進むと、橋本が中央を突破してTD。西岡のキックも決まって7-0。わずか9プレーで、試合の主導権を握った。
守備も踏ん張る。相手の攻撃を完封してパントに追いやり、センターライン近くからファイターズの攻撃。しかし、ここで伊豆が投じた長いパスが相手DBに確保され、痛恨のインターセプト。だが、ここでも守備陣が相手のランをことごとく止め、再び、自陣41ヤードからファイターズの攻撃。今度は伊豆からWR萩原、松井へのパスがヒットし、わずか4プレーでゴール前7ヤードに迫る。RB山口のランの後、仕上げは再び橋本の中央ダイブ。西岡のキックも決まって14-0。
ここで第1Q終了。第2Qに入っても守備陣はDL安田のロスタックルなどで確実に相手の攻撃を防ぐ。1度もダウンの更新を許さず、ファイターズ4度目の攻撃シリーズは自陣49ヤードから。ここでも野々垣と橋本のランで確実にダウンを更新。山口が12ヤードを走った後、今度は伊豆からWR亀山への28ヤードのパスが通ってTD。攻めては4回の攻撃シリーズで3本のTDを決め、守っては相手に一度もダウン更新を許さない。
ここまでは、攻守とも完全なファイターズペース。とりわけ、腕のけがで長いリハビリ生活を続けてきたエースランナー橋本が復帰第1戦で、パワフルな走りを見せつけたのが頼もしかった。RB陣には、橋本以外にもスピード系の野々垣、加藤、高松、パワー系の山本、山口と、それぞれ違った持ち味と一発TDの威力を秘めたメンバーが揃っており、橋本の復帰で、プレー選択の幅がさらに広がるに違いない。
しかし、得点差がつき、攻守とも交代メンバーが少しずつ入って来るようになると、状況は一転する。オフェンスの反則が相次ぎ、長いパスは2度3度と奪い取られる。最終的なスコアは41-0となったが、気分は快勝というにはほど遠い。反則回数は5回、罰退は30ヤード。インターセプトも4本。そのうち3本も同じDBに喫したというのがつらい。過去に見たこともない屈辱的な試合といってもよいだろう。
その試合を見ながら「こうした未熟な場面も含めて、学生スポーツの魅力というのではないか」と考えた。
経験豊富なメンバーを中心に臨めば、確かに安定した試合はできる。実力相応の得点を重ねると、ファンは満足だろう。個々の選手もまたパスキャッチやランプレーの数字を大幅に積み重ねていける可能性がある。
しかし、大学生活は4年間。最初の半年間は基礎的なトレーニングが中心だから、どんなに才能にあふれた選手でも、プレーできるのは3年半しかない。その間に試合経験を積み、成功体験と悔しい経験を互い違いに重ねて成長していくことで、常に優勝争いのできるチーム作りが可能になる。
試合の登録メンバーが限定され、一度ベンチに下がった選手は、再び出場できない野球やサッカーと違って、フットボールは交代が自由。状況に応じて何度でも選手を出し入れできる。振り返れば1試合に50人、60人の選手が出場していることも珍しくはない。
その特徴を生かして、どのチームも盛んに交代メンバーを繰り出し、下級生や故障明けの選手に試合経験を積ませ、成長の芽を伸ばそうとする。いつの試合でも最後までベストメンバーで臨む、ということになると、一握りの選手を除いて、その失敗も成功も味わうことができない。
それでは年々、選手が卒業していく大学スポーツ、課外活動としてのスポーツは成り立たない。200人の選手がいれば、それぞれの選手に成長の機会を保証し、チャンスを与え、それを戦力にしていくノウハウを構築したチームが勝つのが大学スポーツである。例え育成組織が十分に機能しなくても、有望な選手をトレードで獲得したり、金にあかせて外国からの助っ人を集めたりすることで成り立っているプロスポーツとはここが決定的に異なる。
それを十分に承知し、試合が人を成長させるという確信を持っているからこそ、監督やコーチは「負けたら終わり」のリーグ戦であっても、新しい交代メンバーを次々と投入し、成長のきっかけをつかませようとしているのである。
もちろん、不要な反則も、度重なるインターセプトもない方がいいに決まっている。けれども、その失敗、その悔しさを胸に刻んで、選手が成長してくれたら、それはそれで教育の場としての部活動では意義がある。
4年生の幹部が「立命に負けた悔しさを忘れるな」「ライスボウルで負けた悔しさを下級生に伝える」と必死で言うことも大切だ。けれども個々の選手が一つの失敗、一つの判断ミスを「わがこと」として胸に抱え、2度と同じミスはしないと誓って練習に励み、試合に臨むことの方が、より話は具体的だ。
そういう失敗の機会が与えられたことに感謝して練習に励めるのも、課外活動としてのスポーツの意義であり、魅力だろう。
失敗は負けではない。それを再度の精進と挑戦の機会と捉えて全力を尽くす人間にとっては、天からの贈り物である。がんばろう。
結果は「うれしい便りと、悔しい便りをお届けします」。
ファイターズのレシーブで試合開始。RB野々垣が27ヤードをリターンし、自陣29ヤードから攻撃が始まる。まずはQB伊豆からWR前田泰へのパスで22ヤード前進。相手陣に入ると野々垣とRB橋本のラン、WR松井へのパスで敵陣35ヤード。そこで再び前田泰への短いパスがヒットしてゴール前18ヤード。野々垣の切れのよいランでゴール前7ヤードに進むと、橋本が中央を突破してTD。西岡のキックも決まって7-0。わずか9プレーで、試合の主導権を握った。
守備も踏ん張る。相手の攻撃を完封してパントに追いやり、センターライン近くからファイターズの攻撃。しかし、ここで伊豆が投じた長いパスが相手DBに確保され、痛恨のインターセプト。だが、ここでも守備陣が相手のランをことごとく止め、再び、自陣41ヤードからファイターズの攻撃。今度は伊豆からWR萩原、松井へのパスがヒットし、わずか4プレーでゴール前7ヤードに迫る。RB山口のランの後、仕上げは再び橋本の中央ダイブ。西岡のキックも決まって14-0。
ここで第1Q終了。第2Qに入っても守備陣はDL安田のロスタックルなどで確実に相手の攻撃を防ぐ。1度もダウンの更新を許さず、ファイターズ4度目の攻撃シリーズは自陣49ヤードから。ここでも野々垣と橋本のランで確実にダウンを更新。山口が12ヤードを走った後、今度は伊豆からWR亀山への28ヤードのパスが通ってTD。攻めては4回の攻撃シリーズで3本のTDを決め、守っては相手に一度もダウン更新を許さない。
ここまでは、攻守とも完全なファイターズペース。とりわけ、腕のけがで長いリハビリ生活を続けてきたエースランナー橋本が復帰第1戦で、パワフルな走りを見せつけたのが頼もしかった。RB陣には、橋本以外にもスピード系の野々垣、加藤、高松、パワー系の山本、山口と、それぞれ違った持ち味と一発TDの威力を秘めたメンバーが揃っており、橋本の復帰で、プレー選択の幅がさらに広がるに違いない。
しかし、得点差がつき、攻守とも交代メンバーが少しずつ入って来るようになると、状況は一転する。オフェンスの反則が相次ぎ、長いパスは2度3度と奪い取られる。最終的なスコアは41-0となったが、気分は快勝というにはほど遠い。反則回数は5回、罰退は30ヤード。インターセプトも4本。そのうち3本も同じDBに喫したというのがつらい。過去に見たこともない屈辱的な試合といってもよいだろう。
その試合を見ながら「こうした未熟な場面も含めて、学生スポーツの魅力というのではないか」と考えた。
経験豊富なメンバーを中心に臨めば、確かに安定した試合はできる。実力相応の得点を重ねると、ファンは満足だろう。個々の選手もまたパスキャッチやランプレーの数字を大幅に積み重ねていける可能性がある。
しかし、大学生活は4年間。最初の半年間は基礎的なトレーニングが中心だから、どんなに才能にあふれた選手でも、プレーできるのは3年半しかない。その間に試合経験を積み、成功体験と悔しい経験を互い違いに重ねて成長していくことで、常に優勝争いのできるチーム作りが可能になる。
試合の登録メンバーが限定され、一度ベンチに下がった選手は、再び出場できない野球やサッカーと違って、フットボールは交代が自由。状況に応じて何度でも選手を出し入れできる。振り返れば1試合に50人、60人の選手が出場していることも珍しくはない。
その特徴を生かして、どのチームも盛んに交代メンバーを繰り出し、下級生や故障明けの選手に試合経験を積ませ、成長の芽を伸ばそうとする。いつの試合でも最後までベストメンバーで臨む、ということになると、一握りの選手を除いて、その失敗も成功も味わうことができない。
それでは年々、選手が卒業していく大学スポーツ、課外活動としてのスポーツは成り立たない。200人の選手がいれば、それぞれの選手に成長の機会を保証し、チャンスを与え、それを戦力にしていくノウハウを構築したチームが勝つのが大学スポーツである。例え育成組織が十分に機能しなくても、有望な選手をトレードで獲得したり、金にあかせて外国からの助っ人を集めたりすることで成り立っているプロスポーツとはここが決定的に異なる。
それを十分に承知し、試合が人を成長させるという確信を持っているからこそ、監督やコーチは「負けたら終わり」のリーグ戦であっても、新しい交代メンバーを次々と投入し、成長のきっかけをつかませようとしているのである。
もちろん、不要な反則も、度重なるインターセプトもない方がいいに決まっている。けれども、その失敗、その悔しさを胸に刻んで、選手が成長してくれたら、それはそれで教育の場としての部活動では意義がある。
4年生の幹部が「立命に負けた悔しさを忘れるな」「ライスボウルで負けた悔しさを下級生に伝える」と必死で言うことも大切だ。けれども個々の選手が一つの失敗、一つの判断ミスを「わがこと」として胸に抱え、2度と同じミスはしないと誓って練習に励み、試合に臨むことの方が、より話は具体的だ。
そういう失敗の機会が与えられたことに感謝して練習に励めるのも、課外活動としてのスポーツの意義であり、魅力だろう。
失敗は負けではない。それを再度の精進と挑戦の機会と捉えて全力を尽くす人間にとっては、天からの贈り物である。がんばろう。
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