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第61回(2007年度)ライスボウル特設コラム(11)
爆発(explosion) -史上最高のパスゲーム-
QB/WRコーチ 小野 宏
(1)“日本代表”との対決 | (5)OLたちの詩 | (9)ロジスティックス |
(2)二つのノーハドル | (6)ショットガンの5年 | (10)カズタの物語 |
(3)人が変わる時 | (7)ラン&シュートへの挑戦 | (11)後世畏るべし |
(4)ゴール前の罠 | (8)マネジメント改革 |
(11)後世畏るべし 人間関係構築能力の高さ 印象に残ったことをあと三つ。ライスボウルの試合前々日(元日)、4年生にとってはファイターズとして上ヶ原グラウンドでの最後の練習日。軽い練習を終えた後、三原が夏の合宿最終日に東鉢伏高原のグラウンドで選手とコーチで撮影した記念写真を持ってきてくれた。「いつも渡そうと思って忘れていたんで」と差し出した。「おお、サンキュー」と軽く受け取ったが、さりげない感謝の気持ちを感じた。三原の強みのもう一つの側面でもある。プレーヤーとしてのレベルが高いだけでなく、人間関係構築能力が高い。我々社会人のコーチに対して堂々と意見をいろいろ言いつつ、我々の顔を立てるような配慮も怠らない。ミーティングでも人が話していることにいちいち1人でうなずいている。カウンセリングの「傾聴」の技法を自然に身につけているのだ。「以上、ミーティング終り」と言うと三原がまっさきに「ありがとうございました」と声を上げる。関学にはそのような慣習はない。コーチも選手からの感謝など求めない。しかし、やはり感謝されれば気持ちがいいのが人間である。簡単に言えば、大人なのだろう。コーチを操縦してやる気を出させるのもQBの務めと無意識に捉えているのだ。 練習の虫 実は私はライスボウルが終わってタッチダウン誌に記事が載るまで、三原と4年のWRたちが毎日午後2時半から練習していたことを知らなかった。三原は練習量を心の拠りどころにしている。QBは1人では練習できないからWRが付き合うことになる。本当の練習は午後5時からである。我々は仕事を追えて5時半近くにならないと出られない。それにしても1年間気がつかないとはコーチとしてかなりトンマだが、過去の例から考えても練習前練習はどんなに長くても1時間半ぐらいだと考えていた。ゆっくり一つ一つプレーを合わせていたらしい。今年の4年生のQB・WRは(1人を除いて)、3年生までにほとんどの単位を取得していたからできたことでもある。自称「練習の虫」はこうした自分の技術との長い会話の時間の中から、コーチすら分からない繊細な技や独自の工夫を身につけていった。ドロップバックのステップをとっても、同じサイドへの同じ3歩のドロップに見えて実は一つ一つのプレーごとに三原の中では違うのだ。 試合前日の理想 そしてライスボウル前日、東京のホテルで夕方開かれたミーティング。我々は遅れてミーティングの時間に入るとすでにオフェンスメンバーはラインアップ(OL・TE・RB)とワイド(QB・WR)に分かれ、ラインナップはC中山を中心に、ワイドは三原を中心にすでにミーティングが始まっていた。中山も三原もテキパキと一つ一つのプレーについてチェックをしていく。基本的な注意事項やオーディブルの有無、ケイダンス、モーションなどの確認を細かくしていく。時折り下級生に質問して理解を確認したりしながら。コーチは聞いているだけである。十分選手間で確認した後に「小野さん、何かありますか」。「特にない」。理想に近づいたのは、パッシングゲームだけではなかった。選手の主体性。自主自立。自学自習。チームの理念が具現化されている試合前日の光景に、私は深い感慨を覚えた。 |
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◇ |
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ゲームを終え、4階のスポッター席で私自身も不思議な感情に包まれた。いつも通りの無念さも後悔もあったが、心の隅に珍しく感傷的な気分が宿った。もう1試合こいつらとやれたらな‥‥。この4年生がファイターズに入ってきた時、オフェンスは新月のように痩せ細っていた。どん底、だったのだ。それが、少しずつ、少しずつ、この部員たちの成長とともに満ちてきた。そして、その精一杯の輝きを、とても多くの人たちが見守ってくれ、感動を共有してくれた。フィールドで岡田と無言のまま抱き合って泣いた後、名残惜しさを振り切り、ドームを出た。 | ||
終わり |
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6年ぶりの大学日本一に輝き、ライスボウルでも社会人王者・松下電工に堂々たる挑戦を繰り広げた2007FIGHTERSの4年生たち。 | ||
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