第61回(2007年度)ライスボウル特設コラム(3)

 



爆発(explosion) -史上最高のパスゲーム-

QB/WRコーチ  小野 宏

 
(1)“日本代表”との対決 (5)OLたちの詩 (9)ロジスティックス
(2)二つのノーハドル (6)ショットガンの5年 (10)カズタの物語
(3)人が変わる時 (7)ラン&シュートへの挑戦 (11)後世畏るべし
(4)ゴール前の罠 (8)マネジメント改革  
 
(3)人が変わる時

未経験の星

 秋山については少し遡って触れておきたい。追手門学院高校では野球部だった。185センチ、81キロ。40ヤードも4秒54でチーム一の俊足だが、秋山のすごさはそこから先にある。長いストライドでの加速で70ヤードになると敵なしである。サイズ、身体能力に真面目さ、練習好きが加わって「未経験の星」として期待されながら、その期待に見合うような活躍をできないまま4年生になっていた。下級生時から花形ポジションに抜擢されたことでフットボールの面白さを素朴な形で味わうことよりも先に勝利への重圧を溜めこんでしまった。ちょっと「天然」が入っているから「ぼく、あんまり試合に出たくないんですよ」などと私に向かって平気で言う。それが、練習の虫を自負する三原と一緒に誰よりも練習を積み上げ、長い助走期間を経て4年生の8月から爆発的な成長過程に入った。人の成長は右肩上がりの直線のように連続的なものではなく断続的で階段状なのだ。7月のオフにNFLテスティングコンバインに参加し、Xリーグを含めた国内トップレベルの選手たちの中で強い刺激を受けた。というよりも自信をつけて帰ってきた。それが触媒になって秋山の心の中に化学反応が起きたようだった。WRのOBがシーズン直前に現役のために開く恒例の激励会で秋山が「エースになりたいんです」と宣言したという。8月1日の秋のシーズン初日から秋山は変化していた。心のスイッチが「オン」になった。高等部から実績を持っている岸、榊原、萬代らに「へたくそ!」と励まされながら背中を追いかけてきた秋山が一番前に出る決心をした。
 合宿の最終日は、恒例のマン・ツー・マン5番勝負である。5番目の「大将」には秋山が選ばれた。そして、部員の多くがサイドラインから見守る中で守備バックの代表を抜き去ってタテを受けた。相手もタテと予測している。その予測しているタテであえて勝負することを選んだのだ。強気の“ガチンコ”。仲間を代表して勝負をする心が、おそらく彼の人生で初めて胸に宿ったのだ。

決意のひと言

 それ以後の彼の活躍はご承知のとおりだが、何よりも印象に残ったのは立命戦前日の練習後だった。「どうや」と声をかけると、うれしそうに「ようやくですわ」という答えが返ってきた。4年の春までいつも自信のなさそうだった奴が大舞台の到来を喜んでいる。そして、晴れやかな表情で「まかせておいてください」と自ら宣言した。「そうか、がんばれ」などと平凡な返事しか返せなかったが、決して大言壮語しない男の決意のこもった一言に心が震えた。
 我々のパッシングゲームにはどうしても“核弾頭”が必要だった。岸も榊原も萬代もうまいし、勝負強い。かなりのスピードも持っている。しかし、アスリート度で圧倒できるという存在ではない。立命には前田がいる。法政には戸倉と栗原がいる。この3人は本当に特殊な選手である。過去に関学でこのレベルの選手は出てきていない。KGでその域に到達できる資質を有しているのは秋山しかいなかった。立命戦での試合を決める2発のロングパスキャッチはKGパッシングゲームの「脅威」の象徴だった。ライスボウルの独走もオールジャパン級のDBを振り切っての秋山ならではの「エース」の格を見せ付けたタッチダウンだった。

岸と榊原のコンビ

 続くシリーズも、選手たちは自信にあふれていた。QBロールキープは歓声でコールが聞こえず、RBがプレーを間違えた。第2ダウン、岸がショートポストを受けるとタックルをふりほどいて独走。この時も榊原がセイフティをブロックした。60ヤード、ゲイン。岸も素晴らしかったが、榊原のブロックは秋山のタッチダウンの時も合わせて値千金のダウンフィールドブロックである。シリーズがずっと続いていることで守備ラインの運動量が落ちてきている。ランプレーを一つ挟んで、最後はマン・ツー・マンを見越して出したクロスパターンで岸がバスケットのスクリーンプレーのようになり、榊原ががら空きになってタッチダウン。上村が山中のブリッツをブロックしようとして一瞬でかわされたが、QBの投げるタイミングが早く、難を逃れた。C中山とG福田がずっと安定して取りきっている。この試合のためにRBに起用されたOL南浦も危なげない。24-38。2本差に縮まった。
 さらに守備が電工の攻撃を止めた。QB高田が負傷した。おそらく足の痙攣だろう。シーガルズ戦でも試合途中で退場している。
 
「未経験の星」WR#85秋山武史。最終学年にその才能を開花させた。リーグ最終戦の立命戦では勝利をたぐり寄せる2本のロングパスキャッチ。この日もランアフターキャッチからの63ヤード独走タッチダウンを含む10回153ヤードのレシーブを記録した。
WR#81榊原のダウンフィールドブロックが、秋山やWR#1岸へのショートパスを大きなゲインにつなげた。

留年生コーチのプレー

 シリーズは続く。ロールアウトから平田へのピッチ・リバースで第1ダウン更新。このプレーはこの試合で2回目。昨年の立命戦で一度だけ古谷で使って15ヤード近くゲインしたプレーで、留年生のOLコーチである辻が「絶対に通るから使ってくれ」としぶとくしつこく主張してきたプレーだった。「もし通らなかったらどうしてくれんねん」とコーチや後輩に責められながら決して主張を曲げなかった。電工は無警戒だった。結局このプレーは3回コールして12ヤード、11ヤード、9ヤードのゲイン。完璧なまでの成功だった。辻は前年までの現役時代は控えに甘んじたが、最後の試合でコーチとして大きな仕事を成し遂げた。
 続くパスプレーは電工LBがWRをつかんでホールディングの反則となり、連続して第1ダウン。ヒッチを岸がワンハンドキャッチした。OLBが流れるのが早くなっており、三原が外にリードしたのだ。ショベルで平田が14ヤードゲイン。ロールアウトをサックされた。OLBとDLのクロスがかかって横山がOLBをブロックできなかった。9ヤード下がったが、ポストクロスで15ヤードゲインし、第3ダウン4ヤード。ここで第4クオーターに入った。流れは完全にこちらが支配している。このシリーズでTDをとって1本差にできれば勝ちが見えてくる。ただ、この2シリーズ、電工守備はずっと脇坂と三輪を休ませていることが気になっていた。力を温存して本当に危なくなってからもう一度フィールドに戻す魂胆だろう。追い上げられてもあわてずに確実に勝つ方法を計算している・・・。

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