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第61回(2007年度)ライスボウル特設コラム(1)
爆発(explosion) -史上最高のパスゲーム-
QB/WRコーチ 小野 宏
(1)“日本代表”との対決 | (5)OLたちの詩 | (9)ロジスティックス |
(2)二つのノーハドル | (6)ショットガンの5年 | (10)カズタの物語 |
(3)人が変わる時 | (7)ラン&シュートへの挑戦 | (11)後世畏るべし |
(4)ゴール前の罠 | (8)マネジメント改革 |
(1)“日本代表”との対決 最強の「えげつなさ」 ハーフタイムを終え、東京ドームの曲がりくねった通路と階段で4階の特設スポッター席に戻りながら、神田攻撃コーディネーターと私は後半最初のシリーズの攻め方を迷っていた。3-31。前半、プレーは進んでいたのだが、結果として得点は1FGにとどまり、点数差はTD4本まで開いていた。勝利のための折り返しの条件は、最大14点差と見ていた。前半最後のインタセプトTDが我々コーチ陣のコールミスに起因していたことが心を重くした。試合全体のプランは崩壊の一歩手前だった。カンフル剤として「もう一つのノーハドル・オフェンス」を出すのか、それとも計画どおり第4クオーターまで勝負を待つのか――。 2008年1月3日。ライスボウル・日本選手権での対戦は社会人王者の松下電工インパルス。社会人選手権決勝のXボウルでも富士通を33-13で一蹴していた。その原動力になっていたのが鉄壁を誇る守備陣である。7月に川崎で開かれたW杯の日本代表チームの守備に5人を送り込み、しかもその5人ともが1本目の選手たちである。第1線に日本代表チーム主将の脇坂、三輪、第2線には東と山中、第3戦には野村。それだけではない。最終カットの前段階(全体で60人、守備が29人)まではさらに3人(DL角田、LB杉本、DB山田)が日本代表メンバーに残っていた。つまり国内の守備選手のトップ29人のうち8人までが松下電工の選手なのだ。フットボール関係者には、この守備の「えげつなさ」を改めて説明するまでもない。あきれるような人材がそろい、その人材の質の高さがそのまま成果に結びついている。長期にわたって「国内最強の守備」と称されている。リーグ戦5試合の平均失点は6.2点。プレーオフを合わせても9.6点(オーバータイムを除く)。関学も97年から春の神戸ボウルで5度対戦しているが、攻撃では合計で4本しかTDを取れていない。 ストップ・ザ・D-line 松下電工と対戦するすべてのチームが対策にもっとも苦慮するのが、第1線の破壊力である。4人のDLと、元々はDLの人材をOLBに入れ、実質的にDLが常時5人入っている現代フットボールでは珍しいパーソネルグループ(人材の組み合わせ)を中心にしている。この5つのポジションにベテラン、若手を含めて合計10人の最高レベルの選手をそろえている。Xリーグでの試合のビデオを見ても、対戦チームはこの第1線の難関を崩すことができぬまま、ほとんどのプレーを止められてしまっていた。ランはこの1線と2線でほぼ完封している。パスは、時折り通るものの、常に第1線がラッシュで圧力をかけるため、QBが余裕をもって投げる機会がなかなか作れない。Xボウルで富士通は準決勝まで勝ち抜いてきた自分たちのオフェンスを特殊な隊形のオフェンスに変えることを決断せざるを得なかったほどだ。それほどの威圧感がある。 このD-lineをどう崩すか。いや、崩せないまでもどうやって力の発揮を抑えるか。松下電工と対戦が決まり、ゲームプランのコンセプトを練る際に、そのことが最も優先順位の高い問題と考えた。 「ドロップ」で最後に勝負 第1線への対応が何よりも重要と考えた理由はもう一つある。今年のKGオフェンスの最大の武器がドロップ(正確に言えば3歩のスプリント)からのパスだからである。シーズン終盤に新聞紙上ではQB三原を「関学史上最高のクオーターバック」とする表現が目に付いた。そのことに異論はないが、我々にとっては「2007オフェンスが関学史上最高のパッシングゲームのレベルに到達している」という事実こそがより価値が高いと考えていた。QB個人の力量だけではなく、攻撃全体として過去に実現しえなかったパッシングゲームが2段跳びぐらいで一気に実現しているということは、15年間ファイターズでコーチをしている私にとってすら「とんでもないこと」だった。 ただし、パッシングゲームはもろい。急所があるのだ。何よりも守備ラインの圧力を受けると一気に精度が下がる。守備ラインの圧力をどれだけ低減させることができるか。そのことが実現しないと最大の武器は幻に終わりかねない。典型的な試合が2003年のスーパーボウルである。オークランド・レイダースがQBリッチ・ギャノンのパスオフェンスで快進撃し、カンファレンス決勝でもパス成功率8割近いハイパーオフェンスでスーパーボウルへの出場を決めながら、最高の舞台ではタンパベイ・バッカニアーズのウォーレン・サップらDLのラッシュに苦しめられ、5インタセプト、5サックを喫して惨敗した。パス成功率はたしか4割近くまで落ちたと記憶している。 我々がたどり着いた戦略プランの結論は、他のあらゆることを捨てて守備ラインに徹底して的を絞らせないこと。かつ、オープンナップして消耗戦を展開し、DLの運動量を徐々に低下させる。前半は2TD差以内で折り返す。終盤に向けてプロテクションが持つような状況を作り出して第4クオーターにドロップパスで勝負をかける、というシナリオを描いた。 |
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